コンシェルジュ通信Vol.18:小さな出版社について学ぶ2冊

最近は“出版不況”という言葉をよく目にします。

「本が売れない」「書店の数が減っている」など、

出版社にとって苦しい状況が報道される一方で、

1人~数人で本の企画、編集、営業までこなす、

小さな出版社が注目されているようです。

 

 

9月に発売されたばかりの『小さな出版社のつくり方』は、

11社の小さな出版社にライターの永江朗さんがお話をきいた、

インタビュー集。

 

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『小さな出版社のつくり方』

永江 朗/著

猿江商會

 

収録されている11社の出版社は、

テレビ局の記者さんが転身して起業した会社もあれば、

大きな出版社を退職した方が起業した会社もあり、

出版エージェントをしながら本も作っている会社や、

書店も経営しながら出版も行う会社など、

起業の経緯も営業の形態もさまざま。

 

前職を退職した理由や、創業資金の具体的な数字、

本の流通を握る取次会社に取引をお願いする際の苦心など、

かなり踏み込んだ内容まで赤裸々に書かれています。

経営者のみなさんの言葉がとてもユニークで、

特に羽鳥書店の羽鳥和芳さんの

「出版界ではみなさん出版不況だといいますが、

 私は不況だと思っていません。

 いまを出版不況だというなら、

 そもそも出版好況なんて時期はあったのだろうか」

という言葉にはガツンと心を揺さぶられました。

 

 

2冊目にご紹介する『あしたから出版社』は、

夏葉社という出版社を経営している島田潤一郎さんによる1冊。

 

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『あしたから出版社』

島田 潤一郎/著

晶文社

 

「就職しないで生きるには」というシリーズの中の1冊で、

従業員が自分1人だけの小さな出版社を起業した経緯を中心に、

島田さんのこれまでの半生が綴られています。

起業のきっかけは50社の就職試験に落ちたことと

仲の良い従兄が事故で突然亡くなったこと。

「叔父と叔母のために本を作りたい」と一念発起したのは

2008年、31歳の時の出来事でした。

 

島田さんは出版社での仕事の経験はありましたが、

編集の経験は無し。

プルーストの『失われた時を求めて』は読破したけれど、

仕事はどれも長続きしない20代を過ごしてきたそうです。

起業してから島田さんがどんな苦労と喜びを味わったのか、

正直すぎる文章に笑いと涙がこぼれました。

 

 

この2冊を読み進めていくうちに

図書館で本に囲まれて勤務していても、

本がどのように作られて手元に届いているのか、

出版社はどのように経営がされているのか、

知らないことばかりだったことに気付かされました。

 

『小さな出版社のつくり方』のあとがきを

インタビューアーの永江朗さんは

「取材した音声データを聞き返しながら、

 本の未来についてあれこれ考えました。

 けっこう明るい気持ちになって、

 この長いあとがきを書くことができました」

という言葉で結んでいますが、

この2冊を読むと、本当に明るい気持ちになります。

 

 

今回ご紹介した2冊は千代田図書館の「出版にまつわる本棚」

に所蔵されていますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

「出版にまつわる本棚」の資料は館内閲覧のみとなります。

ご自宅でゆっくりと読みたいという方は、

近隣書店での在庫の確認や書店への取り置きも依頼する

「書籍購入サポートサービス」をご利用いただけますので、

図書館コンシェルジュまでお気軽にお声掛けください。

Posted at:10:30