千代田図書館長の読書日記

今回は、「千代田図書館長の読書日記」をお届けします。

2012年12月に就任した望月館長に

お気に入りの本について語っていただきました。

千代田区立図書館に所蔵の本ばかりですので

ぜひ、ご一読ください。

 

私の数少ない趣味の一つに「仏像めぐり」があります。

中でも「観世音菩薩さま」―聖観音さま、十一面観音さま、千手観音さま、

如意輪観音さま、不空羂索観音さまなどなど…大の観音さま好きです。

 

観音さまは衆生済度のため修行中の身で、まだ仏の境地に達していない

いわば人間と仏さまの中間にいる存在です。

そして、女体でありながら精神はあくまでも男であって、

その両面を兼ねている…だから力強いのに美しくて色っぽいのです。

と、私は勝手に決めているのですが

このあたりが私が観音さま好きになったポイントでしょうか。

 

ところが、私には仏教心など全くありませんし、芽生えてもこない…

これは冒瀆ではないかなどと、もやもやしていたときに出会ったのが、

千代田区ゆかりの作家のひとり、白洲正子さんの

『私の古寺巡礼』『十一面観音巡礼』でした。

 

『私の古寺巡礼』

白洲 正子/著 

法蔵館

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『十一面観音巡礼』

白洲 正子/著 

新潮社

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“私は初めから「お寺を訪ねる心」なんて上等なものは

持ち合わせていなかったように思います”

というはしがきを読んで、心がすっと軽くなったのです。それに

“やはりほんとうに美しい仏さまは、ただ美しいというだけで、

しぜんに拝みたくなりました”

そう、そうなんです、私も全く同じでした。このままでいいんですね。

それからは、とにかく手さぐりでも、なるべく多くの観音さまにお会いしよう、

そう心に決めて、今も月に一度は各地をめぐっています。

 

とはいっても、白洲さんの日本文化への精通、造詣という点では

群を抜くものがあるわけで、その知識の豊富さは驚嘆に値しますが

でもその文章は清新で、インテリぶりをひけらかすようなところは全くなく、

だから心の奥にすっと入ってくる…。

 

白洲さんの背中を追う、私の「観音めぐり」はまだまだつづきそうです。

 

〈付録〉もう1冊、最近お世話になったガイドブックです。秘仏の開扉は

    圧倒的に18日が多いんです。理由をご存じの方、教えてください。

 

『日本の秘仏』

コロナ・ブックス編集部/編

平凡社

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◇◆望月館長のプロフィール◆◇

望月 千恵子(もちづき・ちえこ)

50年生まれ。

九段中学・日比谷高校を経て武蔵大学社会学部卒業後

出版社に勤務。編集長・役員を務めたのち

2010年より千代田図書館副館長に就任。

2012年12月より千代田図書館館長を務める。

 

文中で紹介された、白洲正子さんの著書は

千代田図書館9階、コンシェルジュブース横の

「千代田区ゆかりの文学者コーナー」に多数あります。

 

 

Posted at:09:00

生物と無生物のあいだ

今日は「千代田図書館長の読書日記」をお届けします。

なにかと慌しい季節ですが、ときには暖かい部屋で

ゆったりと静かに読書の時間を過ごしてみてはいかがですか。

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ばらくご無沙汰しておりました。

最近の私は、福岡伸一ハカセに夢中です。

続けて何冊か読みました。

そのコ―フンを、皆様にも是非お分けしたく思います。

  

『生物と無生物のあいだ』

 福岡伸一/著(講談社現代新書) 
『生物と無生物のあいだ』は、出版されてから20118月までに

29刷りを重ねていて、大ベストセラーとなり、

さまざまな出版関連の賞を受けている。

 

著者の福岡ハカセはマスコミにもさかんに露出され

最近その事がハカセの研究活動に支障を来たさないか、

と心配する声も聞かれる。

有為の研究者を大事にしたいという、読者の声である。

  

この本はハカセの研究分野である、生物と無生物は

「なに」で、「どこ」で線が引かれるのだろう、

と様々な問題提起をしている。

 

  

この部分は正直言って、私の高校卒程度の「生物」教科書の

知識では、理解できないものがありました。

 

しかし、その文章が美しいので、多少理解できない部分が

あっても、つい読めてしまったのです。

DNA解析に関わった歴代の著名な研究者の悪戦苦闘の記述の

部分なんかは涙がでました。

 

少年時代は昆虫少年であり、毎日昆虫と昆虫図鑑に熱中していた

ことを彷彿とさせる文章は圧巻です。

 

実は、ハカセの読書は昆虫図鑑だけではなかったようなのです。

阿川佐和子さんとの対談書では、

ご自分の「センス オブ ワンダー」を次々話されていますが、

その中で、幼少時親しまれた児童書がたくさん挙げられています。 

 

『センス・オブ・ワンダーを探して~生命のささやきに耳を澄ます~』

福岡伸一、阿川佐和子/著(大和書房)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『センス・オブ・ワンダー』

レイチェル・カーソン/著 上遠恵子/訳 

森本二太郎/写真(新潮社)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨年出版された『ルリボシカミキリの青』では

「私は虫を集めて何がしたかったのだろう?

 フェルメールでさえ作りえなかった青の由来を、

 つまりこの世界のありようを、ただ記述したかったのだ」

(同書 オビより)

 

 

『ルリボシカミキリの青』

福岡伸一/著(文藝春秋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェルメールの絵については『フェルメール 光の王国』

(翼の王国books/木楽舎)出版されています。

 

機会がありましたら、皆さまも福岡ハカセの世界を

ぜひ一度ご覧になってみてください。

Posted at:09:00

加賀乙彦『高山右近』

12月24日付の日本経済新聞夕刊【文学周遊】にて

加賀乙彦さんの著書『高山右近』と長崎市が紹介されました。

本書は、このブログの「館長の読書日記」でも昨年取り上げた

館長のおすすめの本です。

関連書籍と合わせてぜひご覧ください。

 

千代田図書館長の読書日記  2010年2月24日付

 

日記タイトル「キリシタン大名/町人出身のキリシタン武将

(タイトルをクリックすると過去の記事をご覧になれます↑)

 

『高山右近』

加賀乙彦/著 講談社

 

 

Posted at:18:20

不安のにおい

今日は、館長の読書日記をお届けします。 

 

『精神科医がものを書くとき』

著者 中井久夫

出版社 筑摩書房(ちくま学芸文庫)2009年

定価 1,200円+税

ISBN 978-4-480-09204-5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買ってから気にしつつ、丸2年「つんどく」にしていたもの。

今度ちょうどいい機会を得て、読むことができた。

 

第Ⅰ章から第Ⅱ章は、精神医学概論と、

ご専門の統合失調症についてのもの。

第Ⅲ章に気になる文章があった。

『微視的群れ論』の中の「不安のにおい」というくだりである。

 

においは人や家などにもあり、

旅にでると街のにおいを感じることができる。

 

私がドキリとしたのは、

『においは触れることの予感でもあり、余韻でもあり、

 人間関係において、距離を定める力があります』

と書いてあるところである。

 

あるにおいに引き寄せられ、あるにおいを嫌悪するという事を、

別の言葉で表現すると、こうなるのだ!!

   

時に漠然と感じていたことを、この様に文章でピシリと書かれると

「だから中井先生スキ!!」と言ってしまいたくなる。

 

中井先生が患者と面接していた時、

患者を不安にしてしまう事を言ってしまった。

そしたら、ふいに「そのにおい」が患者の口からにおってきた。

昔、精神病院全体に匂っていたにおい

(いわゆる不潔なにおいではない)であった。

 

これを中井先生は「不安のにおい」と書いている。

 

3月末、生まれてはじめて入院するハメになった。

入院日・手術日が決まった頃、

夫から「ヘンな匂がするネ」と言われ、かなり怒っていたのだが

もしかして、それは「不安のにおい」だったのか―と思っている。

 

そして『不安になった人間が放つにおいというのは、

ひょっとしたら、

他の個体を去らせるような作用をしているのかも知れない。

だから不安になった人が孤独になっていくということは、

大いに考えられるわけです。』

 

だから、隣の精神を病んでいる人が「不安」に陥ることがないように・・・ 

Posted at:10:00

『マンガはなぜ規制されるのか』

今日は、千代田図書館長の読書日記をお届けします。 

 

『マンガはなぜ規制されるのか 

        「有害」をめぐる半世紀の攻防

著者 長岡義幸

出版社 平凡社(平凡社新書)

出版年 2010年

ISBN 978-4-582-85556-2

参考価格 780円+税 


まずはこの本の紹介として、

平凡社PR誌「月刊百科」No.578 2010年12月号

掲載された出版案内より以下、転載する。

 

『「非実在青少年(*)」規制で話題となった、

東京都青少年条例の改正案。

マンガは「有害」か?

規制の仕組みとマンガバッシングの歴史と現在。

その背景を丁寧に解説する。』

 

* マンガ、アニメゲームなどに描かれた18歳未満

(実在しない青少年)の性的表現物を規制するために、

 東京都があみだした言葉。

   

 

 

マンガはマンガと言うだけで、

親や先生からイヤな顔をされた記憶がある。

しかし最近は

「誰にでも読んでもらえるように、マンガを使って表現しよう」

と言ったり、

「図書館の蔵書構成は、マンガを抜きにしては考えられない」

となってきており、

ではどんなマンガを図書館は収集していくのかを考えている。 

 

現在の図書館は、マンガは思想表現の一つの方法と捉えて、

少なくともマンガと言うだけで、資料選定の対象にはしない

という態度はとっていない。

しかし何を選ぶのかについては、現場は非常に苦労している。

 

図書館で仕事をしている私たちは、

マンガについてもう一度勉強する必要があると思っていた時、

標題の図書が発行され、飛びついた次第。

 

一読した結果グーです!!

 

著者長岡氏の結論は、  

『図書規制は判例がどうであろうと、

 表現の自由に抵触するのは間違いない。

 しかも警察的な発想で規制が行われるのは

 民主主義に反する大きな問題だ。

 それだけでなく子どもを「保護・育成」しなければならない存在

 としてみるのか、子どもを権利の主体としてみるのか

 という二つの子ども観のせめぎ合いでもある。

 表現活動を制限することによって

 一方に偏した多数派の子ども観が「蔓延」してはならない。』にある。

  

マンガは青少年に有害か、否か。

それは規制されるべきか、否か。

戦後だけでも、何回もこの議論が繰り返されてきている。

 

本書の目次によって見ると、

マンガ規制の歴史を1950年代から、つまり戦後から俯瞰している。

内容的には、悪書追放運動・「三ない運動」から説き起こし、

マンガ・劇画ブームによって規制が強まっていく過程を、

国会の動き、各政党の意見、規制推進・反対の運動団体の活動の

根拠としているものなど、丁寧に掘り起こし述べている。

 

80年代後半に「М君事件」が起こり、

「有害」コミックの取り締まりが一気に世論となり、

マンガ規制の動きが再度強まってきた。 

「おたく」という言葉が流行語になり、

存在そのものが恐れの感情を持たれたように記憶している。

そして「児童ポルノ禁止法」が成立する。

  

マンガの『性的・暴力的・残虐的描写を見ることで、

青少年の判断能力や常識、価値観が歪められるのか。

健全な育成が阻害されるのか。

そればかりか、内容に影響をうけ性犯罪や非行を

誘発するおそれさえある』と言う事なのか。

その根拠があるのか。

 

これらの回答に相当する、

最後10ぺージ余にわたる記述は圧巻であり、明快である。

最初に書いた著者長岡氏の結論に同意するか否かは別にしても、

いま世界に向け日本文化を代表して担っている感のあるマンガの、

それぞれの時代・歴史のなかで扱われてきた模様を見てみるのも面白い。 

Posted at:09:00

館長のブックトーク「野口英世」より

10/23~11/9の読書週間中、平日の昼休みに開催した

「大人のためのランチタイムおはなし会」。

最終日は、館長によるブックトークで、6冊の本が紹介されました。

 

▲このイベントを楽しみに、毎回来てくださった方も。

 

ブックトークとは、あるテーマに沿って複数の本を紹介する

もので、1冊の本を起点に読書の世界が広がっていく面白さ、

読書の醍醐味を知っていただくためのものでもあります。

 

今回の「野口英世」をテーマにしたブックトークでは、

どんな本が紹介されたのでしょうか?

 

《起点となる1冊》

『生物と無生物のあいだ』

福岡伸一・著 講談社現代新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福岡さんが米国ロックフェラー研究所に在席していた頃、同図書館内で

【Hideyo Noguchi】のブロンズの胸像を見つけたこと、同研究所での

野口英世の評価が、日本国内のそれとは異なっていたこと、などが

書かれていて・・・という話から、ブックトークが始まりました。

 

《小説で知る野口英世》

『遠き落日 上・下』 渡辺淳一・著 角川文庫

 

 

貧しい環境で生まれ育った野口英世が、医学の道を進むため、

また、単身アメリカへの出発に向けて、どのように資金を集め、

いかに成り上がっていったのか。若き無名時代の苦悩の日々

から死にいたるまでがよく描かれている。

表紙画に女優の三田佳子と牧瀬里穂の写真が載っていますが

この作品は、同名タイトルで映画化もされている。

 

《野口英世も一時勤めた研究所の雷おやじ》

『ドンネルの男 北里柴三郎 上・下』 

山崎光夫・著 東洋経済新報社

 

 

医学者・細菌学者で、「北里研究所」設立者の北里柴三郎の伝記。

野口英世は、北里の伝染病研究所に勤めた後で、ロックフェラー研究所

に移った。 この伝記には、野口英世のほか、北里を取り巻く

さまざまな人物が登場する。当時、陸軍軍医総監・陸軍省医務局長

だった森林太郎(のちの森鷗外)と、「脚気」の原因をめぐっての確執、

さらには森をはじめ東大派との派閥抗争など・・・も描かれている。

当時「脚気」は海軍・陸軍軍人の病死の最大の原因だった。

 

《「脚気」の予防法を確立した人》

『白い航路 上・下』 吉村昭・著 講談社文庫

  

 

その「脚気」の予防法を確立した、高木兼寛の生涯を描いた作品。

(高木は、東京慈恵会医科大学の創立者。)

「脚気」の原因をめぐっては、陸軍軍医部を代表する森ら東大派が

<脚気菌説>を固守し、対して北里や、海軍軍医総監の高木らは

<栄養学説>を打ち立てた。派閥闘争ともなったこの対決は、

日清・日露戦争を経て、森・高木両者の死後に結着した。

 

《日本の近代医学の先駆者たち》

『日本医家伝』

吉村昭・著 講談社文庫

前述の高木兼寛、日本初の人体解剖を行った山脇東洋、「解体新書」を翻訳した前野良沢など、近代医学の先駆者12人の生涯を描いた評伝。

 

 

 

 

  

《幕末~明治という時代》

『模倣の時代 上・下』

板倉聖宣・著 仮説社

 

 

 

 

 

 

 

 

幕末~明治を一言であらわすとしたら、「模倣」の時代だったと

言えるのではないか。

本書については、あとがきから一部抜粋する。

「「この本の書名を何と名付けるか」ということについては、ずいぶん

いろいろと考えました。最初は単純に『脚気の歴史』と考えていたの

ですが、この本の内容はそんな表題で考えられるのよりももっと多数

の人々の関心を捉えることができると思われてきたので、

もっと小説風の表題にしたくなってきたのです・・・」

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・* 

起点となる1冊の本『生物と無生物のあいだ』から、脚気の歴史を

通して当時の社会や思想について知ることのできる『模倣の時代』

まで、「野口英世」というテーマで6冊の本が紹介されました。

 

ブックトークは、自分が滅多に手にとらない分野の本でも

思わず読んでみたい!と思わせられる巧妙なトークと、

1冊の本から、こんな風に読書の世界を広げていくんだ!と

本の読み方を知ることのできる点が最大の魅力です。

みなさんも今後「ブックトーク」という単語を耳にしたら、

ぜひ、メモを片手に、ご参加くださいね。

 

Posted at:11:10

至れり尽くせりのブックガイド

書店では“20代のうちに読んでおきたかった”本が人気ですね。

今回の「千代田図書館長の読書日記」で取り上げる本は、

大学新入生向けに書かれてはいますが

社会人の教養としても、はずせない本101冊が紹介されています。

本を読む時間がない!人にこそ、おすすめの本かもしれません。

それでは、千代田図書館長の読書日記(6)をどうぞ。

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

『大学新入生に薦める101冊の本』

編者 広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト

出版社 岩波書店(2005)

サイズ 

価格 1,400円+税

ISBN 4‐00‐023763‐2


 

 

『大学新入生に薦める101冊の本 新版』

編者 広島大学101冊の本委員会

出版社 岩波書店

サイズ 

価格 1,400円+税 

ISBN 978-4-00-023781-9


 

旧版から5年経って、新版が発行された。

旧版発行時に入学した学生が、様々な感想を残して

卒業したのだろう。

それらを反映してか、新版の推薦図書がだいぶん

変化している。章建てもすっきりした。

 

また、この本を創る体制として、

全学的な編集委員会がつくられており、

かつ、実務支援として、広島大学教育室教育企画グループの

個人名の方がちゃんと載っている。

 

因みに旧版では【関係者・執筆者一覧】として、

企画・編集、原稿査読(匿名)、IT技術支援、

調査支援(大学図書館の司書が関わったのかな)、

実務支援がそれぞれ個人名で出ている。

更に私の目をひいたのは、

財政支援として、大学学部名、病院名が

出ていることである。

 

これを眺めていると、プロジェクトの方々の、

発行に漕ぎつけるまでの産みのご苦労が

『私には』わかるのだ!!

 

新版は全学プロジェクトで企画編集され、

全学的な協力の下で完成したと書かれている。

体制的にも整備が進んだという事だ。

 

さて、この2冊の内容について。

新入生に薦める(つまり是非読んでもらいたいのだ)

図書ということで、至れり尽くせりの内容である。

 

新版の構成は

1      教養への誘い(教養課程がまだあるのかしらん)

2      人間の記録

3      パラダイムを超えて

4      戦争と平和への希望(広島らしい・・・)

5      現代の重要問題

6      本の買い方選び方(面白い。思わず笑っちゃいました!!)

索引(著者名・書名・事項)

  

となっており、それぞれに推薦する図書が、

難易度を示す★の数で示され(旧版のみ)、

見開き2ページに推薦者の署名入りで、

推薦理由が書かれている。

 

この文章は、当該図書の要約でもあるので、

実はこれを読むだけで、

「本を読んだ気になってしまいがち・・・」

 

同時に、著者の簡単な経歴と推薦図書が書かれた時代背景、

「さらに読みたい人」に薦めたいものを挙げているコラムがあり、

大学新入生に薦める読書案内として、光っていると思う。

Posted at:17:05

凪を求めて南木佳士を読む

今日は千代田図書館長の読書日記をお届けします。

 

『からだのままに』

著者 南木佳士(なぎけいし)

出版社 文春文庫(2010年)

価格 495円+税

ISBN 978-4-16-754516-1

 


 

この作家の作品は、半分ほどは読んでいる。

同年輩の友達に自慢げに言ったら、

「凪(南木)シンドローム?」と返された。

凪か・・・ ウマイ!

私はこの作家の作品に、凪(なに)を求めているのか。

呼吸器外科医を長年務め、

毎日苦しみぬいて死をむかえる患者を看取っているうち、

自身はパニック障害に陥り、それからうつ病を患い、

病院勤務もままならない日日が続き、

登山をすることで病気回復の「道」を見つけつつある。

 

『ダイヤモンドダスト』で第100回芥川賞受賞。

いわゆる本業を手控えたり辞めたりせず、

今も二足の草鞋をはいて、

苦しみながら書くことも辞めていない。 

 

この作家の作品は、読むことが気持ちの負担にならない。

辛い事を「辛い」と書いているのに、

読んでいる私の気持ちが辛くならない。

こんな物語が、時として無性に読みたくなることがある。

 

これは私が「凪」を求めているのかも知れない。

 

どの作品にも、自身の家族(特に父親、祖母)について、

東北で過ごした医大生の生活模様、自身のパニック障害

発症からうつ病を患うようになるまで、が必ず出てくる。

 

上記の事項をいくつか組み合わせて物語が仕立てあげられ、

1冊の本が出来上がっているように思う。

新刊書を読んでいても、そろそろ「あの」事が出てくるな

と思うと、必ず出てくる・・・この嬉しさ!!

 

しかし読むたびに何となく飽きてきて、

もう読むものかと思っても、新作が出ると手にとってしまう、

まさに「南木シンドローム」に陥ってしまっている。

 

最新刊『からだのままに』の登山のくだりを読んでの大発見。

 

南木式「なぜ山に登るのか」

 

「・・・略・・・からだの重心を左右に移動させつつ、

いくらか前傾して進む。ゆっくり、ゆっくり。

すると、登っているという意識が消え、自分がただそういう

行為だけが可能な動物に変容してゆく錯覚にとらわれる。」

 

だから結果として、山に登っていることになる・・・ということ。

 

私も少し山登りをするので、このフレーズをもじって

「そこに山があるから」に変え、

「からだの重心を左右に移動させることで、

登っているという意識なく、山に登っているにすぎない」と。

Posted at:17:20

認知症に罹った人間の悲惨さ

今日は、千代田図書館長の読書日記をお届けします。 

 

山田稔作品選『残光のなかで』より 「リサ伯母さん」 

著者 山田稔

出版社 講談社文芸文庫(2004年)

価格 1200円+税

ISBN 4-06-198371-7

 

 


認知症を書いた作品はたくさんある。

私について言えば、

認知症患者になってもいい歳には不足しないので、

とにかくどんな知識をも欲しくて、

手当たり次第に読んだり、観たりしている。

  

どれもこれも身につまされる。

 

認知症患者の外見・行動の経年変化や、

看護する側の人の大変さについては

どの本や映画等にも必ず出てくるが、

今回は、山田稔著「リサ伯母さん」を紹介したい 

 

認知症に罹った人間の“静かな”悲惨さが

澄明な文体で書かれていて、ことばそのものが

読んだ直後にじわっと滲みてくる。

 

 

リサ伯母さん――

「僕」の母の姉に当たる人。

幼児期の僕にとってはとても大切な人であった。

しかし、この人の生い立ちや境遇については実はよく知らない。 

 

いつも白いボンネットを被り、やはり白い、裾のひらひらした

ドレスを着て微笑んでいる。そばによると好い匂いがする・・・

  

僕はパリに留学する時、リサ伯母さんからリュクサンブール公園

のマロニエの葉を1枚送って欲しいと頼まれた。

しかし伯母さんの死の床には間に合わなかった・・・

  

でもこの葉は、僕のパリ留学の時に拾った物ではなく、

一家3人でパリに行った時、妻が拾ったものだという・・・

あんなに慕わしいリサ伯母さんを、妻は「存在さえ否定する」のだ。

あろうことか、僕は自殺した一人息子の記憶さえ混乱している――

 

 

夫も妻も日毎に認知症が進んでいく。

こうなると、どちらの記憶が正しいのかという事は、

問題では無いのかもしれない。

認知症という病気について、リサ伯母さんという美しい人と、

一人息子の自殺ということを介して、見事に描いている。

 

 

★山田稔(やまだ・みのる)

1930年、福岡県門司市生まれ。フランス文学者、翻訳など多数。

  

 

Posted at:18:10

『最終講義』

今日は千代田図書館長の読書日記をお届けします。

千代田図書館の書庫から発掘した1冊だそうです。

 

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大学の卒業式の季節です。

 

かつて、『諸君は肥った豚より、痩せたソクラテスになれ』という名言が、

贈る言葉となった卒業式がありました。

 

ところで、大学の先生方の「最終講義」も、先生方の卒業「式」ですよね。

10年以上前に出た本ですが、次のようなタイトルのものがあります。

  

『最終講義』

編者  中村真一郎/坪内祐三

出版社 実業之日本社(1997)

サイズ 545p 

ISBN  4-408-10256-3

 


 

この中には19名の方々の最終講義録が収められています。

これらは殆どマスコミでも取り上げられた名最終講義です。

目次から拾うと、

辰野隆氏・西脇順三郎氏・矢内原忠雄氏・冲中重雄氏・中根千枝氏・・

それぞれ学問の世界でも一時代を築いた方ばかりです。

 

それらの中から、私の独断と偏見で、一つの最終講義を取り上げてみます。

  

冲中 重雄

演題:内科臨床と剖検による批判  

1963年3月4日 東大医学部内科講堂

 

 

 

この講義以来、「冲中先生の誤診率」という言葉で、

マスコミは報道しました。

医者が誤診をするという事が、まずショックでした。

誤診については今では盛んにマスコミが報道していますが、

1960年代はあんなエライ(東大教授)先生が?と、

俄かに信じられなかったですね。

 

最終講義は、死亡診断書と剖検との統計上の誤差、

冲中内科における年度別剖検率、年度別誤診率、・・・と続き、

以下の内容で結ばれました。

 

『わたしどものみずからの反省のために苦い経験をまとめた

 のでございます。しかし、時には剖検いたしましても、

 臨床症状を十分に説明しえないものもあります。

 ・・・それから剖検上、予期した臓器に病変を認めましても、

 その病因とか、発生機序の不明なことがあります。』

 

 中略

 

講義はまだまだ続きます。

そして・・・疾患別の誤診率をそれぞれ述べた後、

 

『平均しまして14.2%となるわけです。』 

 

 中略 

 

『こういったことをみますと、やはり正しい経験というもののためには

 剖検という試練がどうしても必要であるということを、

 こういった数字がよく示しておると思います。

 自分では当然正しい診断と思ったのが剖検ではとんでもないものがでてきた。

 こういう誤診があるのであります。』

 

 中略

 

『・・・その言葉を、学生諸君にお伝えして、

 わたくしのこの最後の講義を終わりたいと思います。

“書かれた医学は過去の医学であり、目前に悩む患者のなかに

 明日の医学の教科書の中身がある”というのです。

 長らくご清聴ありがとうございました。』(鳴りやまぬ拍手)

 

 

Posted at:18:18

キリシタン大名/町人出身のキリシタン武将

今日は千代田図書館長から読書日記が届きましたので

ご紹介します。

 

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NHKラジオ第一で毎週土曜の朝に放送されている

「ラジオあさいちばん」で、今話題の本の著者に話を聞く

コーナー「著者に聞きたい本のツボ」から1冊。

 

ゲストで呼ばれていた加賀乙彦さんに興味がわき、

まず手に取った著書がこれ。

 

『高山右近』

著者:加賀乙彦

出版社:講談社(1999年)

参考価格:¥1,900+税

ISBN:4-06-209831-8

 


歴史上の人物、高山右近については、以下の程度の人物事典的な

知識は私にはあった。 

  

「キリシタン大名」と呼ばれている。

天正15年(1585)秀吉の伴天連追放令で、忠勤か信仰かの

選択を迫られ、断固として信仰を選び除封された。

加賀前田家家臣となる。

その後、家康の禁教令によりマニラに追放される。

難儀の末到着したが、その地で64歳の生涯を終えた。  

 

キリシタン信仰を持っていることが、

迫害を受ける理由になった歴史上の人物で

「南海の美少年」天草四郎、

「歴史に翻弄された悲劇の女性」細川ガラシャなどに比べ、

この人の伝記は少ないと言われている。

  

作家加賀乙彦は、史実に添いながら縦横無尽に高山右近を動かし、

「伝記小説」を創り出した。

自身もキリスト教信者であり、精神科医でもある作家のペンで

創出された高山右近は、読む者の身に迫って、私は圧倒された。

 

①今でいえば、職場で意見の合わない同僚との

「大人の付き合い」の喜怒哀楽

 

②仏教における極楽浄土と、キリスト教における天国の

 意味の微妙な違い

 

③信者でない者がキリスト教の教義について抱く素朴な

 疑問について、登場人物をして適切に語らせている

 

 

など、この小説から示唆されるものは多くあった。 

図書館に勤務しているものとして心に止まった事が一つ。

 

追放されマニラに向かう船が時化にあい、積み込んでいた書物が

汚水にまみれた。

しかし、高山右近はぜひともまた読める状態にしようと決意し、

その再生作業を始めた。

作業を手伝う彼の幼い孫たちに、書物を中にして、

昔の思い出などをかたる・・・。

 

年上の者から年下の者へ経験・知識を伝えていく場面である。

 

  

キリシタンつながりで、もう1冊。

 

同時代のキリシタン武将・小西行長の場合、

結局、高山右近になれなかった人・・・と言われる事がある。

そこに逆に親近性があるともいわれる。

町人(堺)出身のキリシタン武将の生涯は

また別の信仰生活があるのだろう。 

 

『鉄の首枷 小西行長伝』

著者:遠藤周作

出版社:中公文庫(1979年)

≪絶版≫

※中公文庫ワイド版で2005年に出版されています。

 


※文庫本カバーより・・・ 

戦国の過酷な権力者太閤秀吉の下で、世俗的栄達の野望と

信仰に引き裂かれ、無謀な朝鮮への侵略戦争では密かな

和平工作を重ねたキリシタン武将小西行長の面従腹背の人生を

克明に描く著者会心の傑作。 

 

 

 

 

Posted at:18:55

久々に読んだ「熱い」本

このブログを運営している千代田区読書振興センターの活動拠点は、

千代田図書館の事務室内、館長デスクの目の前です!

 

仕事の合間に聞く館長の話は、ジョークを交えながらの愉快な小話から

何かを考えるきっかけとなる深い話までと様々で、飽きることがありません。

 

そこで、このカテゴリでは、そんな館長の「読書日記」を

ブログ読者の皆さんに公開します!

最近読んだ本や、これまでの人生で出会った本などについて、

千代田図書館の新谷館長がざっくばらんに綴ります。

 

人生経験も長い館長の読書日記です、どうぞお楽しみに!

 

 

『君も精神科医にならないか』

著 者: 熊木徹夫(くまき・てつお)

出版社: 筑摩書房(2009)ちくまプリマー新書

大きさ: 174p

ISBN : 978-4-480-68828-6

定価 : 760円+税 

≪対象≫ 中学生~一般向け

≪館長メモ≫ 街の本屋でいつもチェックしている

シリーズ最新作。強烈なメッセージを発していた。


 

 

映画やテレビドラマの中で活躍する医者はカッコいい!!

 
この本の著者も、とてもカッコいい。
 
何が?
 
まずカルテは、
『公式文書だから決しておろそかには書けないが、
あえて(患者の)将来予想を書きこむ』ことにより、
懸命に考える医者としての自分を鍛えていく。
 
また患者と医者の認識の幅を確認しあう為に言葉があるという。
しかしその言葉は、
『双方を傷つけることがある取扱注意』の『精神科医のメスである』
と認識して、細心の注意を払う努力をするという。
 
そして、精神科医だけに限らず、一般的にも専門家になるとは、
『退路を断つということ。
「私にはできません」「私にはわかりません」ということを言わず、
何とか決着をつける、
そこまでいかなくともある程度形を成すところまで持ち込んでいける』
という事である。
 
『体験の集積が必ず成長を支える』
これは嬉しい言葉ではありませんか。
 
貴方が医者でなくても、まして精神科医になりたくなくても、
この本の著者が発するメッセージの、多くの事が胸に落ちる事請け合い。
  
久々に「熱い」本を読んだ。

ちなみにこの著者の恩師の一人は、精神科医で作家の中井久夫氏である。

 

 

・・◆◆ 新谷館長のプロフィール ◆◆・・

 

 新谷 迪子 (しんたに・みちこ)

 41年生まれ。

 大学卒業後、66年より大学図書館に勤務。

 その後、いくつかの公共図書館を経て、

 2000年、横浜市中央図書館を定年退職。

 09年4月より、千代田区立千代田図書館長。

 

Posted at:12:20