千代田図書館長の読書日記

 今回は、「千代田図書館長の読書日記」をお届けします。

2017年4月に就任した小出館長に

最近、ふと心に浮かんだ本について語っていただきました。

 

 

5月の日曜日、季節外れの猛暑から逃げるように飛込んだ、

千駄木の団子坂上にあるカフェ。

谷根千の一角、落ち着いて洒落た空間の中で

「これが谷根千の雰囲気か」と意味もなく感心していると、

冷たい飲み物が喉に沁みて、ふと我に返る。

「あ、時間がない」。

慌てて目的地の島薗邸に向かう。

 

緑が濃くなった植栽に囲まれたドイツ風の重厚な構え。

脚気とビタミン不足との関係を発見した

東大の島薗順次郎教授の長男が建てた邸宅。

団子坂上の反対方向には森鴎外文学館がある。

森鴎外は脚気の原因は細菌だと言い張っていた人物。

不思議な縁を感じてしまう。

 

なぜ島薗邸に伺ったのかというと、

「谷根千」の言葉を最初に使った地域誌の方から、

取壊された工場から昭和初期のリボンの見本帳や

その他資料が見つかったとの情報を耳にし、

何よりその写真を目にして、「これはすごい」と感嘆したからなのです。

 

貴重品を汚さぬよう白い手袋をして、資料をめくりながら

リボンの数々を目にすると、圧倒されるばかり。その種類は数えきれない。

フランス製のものもあるが、何といってもそれを織った職人技には

感嘆の二文字しか浮かんでこない。

 

そう言えば、日本は職人の国だと思い至る。

今年になって読んだ本を思い出しました。

 

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『櫛挽道守(くしひきちもり)』 

木内 昇/著

集英社

 

幕末の木曽山中の藪原宿を舞台に、少女の主人公が

家業の櫛挽に魅せられ、家族や世間との確執を抱えながら

成長していく姿を描いた物語です。

暮らしぶりや旅人の情報によって、時代背景が丹念に描かれています。

 

しかし、いつの時代であっても職人の生きる様は、

職人でない人にも共感をもたらす力があるように感じます。

冒頭で櫛を挽くタイミングを覚えるため、一歩一歩

雪道を歩く情景が登場しますが、それが主人公の人生を、

地味であっても鮮やかに物語っているのではないでしょうか。

 

しかも、彼女の物語には、自分の力ではどうしようもない出来事、

望んでいない成り行き、考えつめ必死で守ろうとする思い、

思いがけず明らかになる真実などが散りばめられています。

これは職人でなくとも誰もが歩む人生の縮図のようにも見えます。

 

自分の人生を形作るのは自分という職人です。

さまざまな出来事は自分に関係する限り避けて通ることはできません。

その事実から逃げずに現実に向き合おうとする心根。

そして何かを失い何かを得る道。

 

死んだ弟の優しさや、ライバルとしか見ていなかった夫の本音に気づくとき、

「人生って大変だけど捨てたものじゃない」という

ちょっと浮ついた言葉を思い浮かべてしまいます。

 

主人公の家族一人ひとりに、島薗邸で見たリボンをそれぞれに

選んで贈ってあげたい気分になるような一冊。

3つの文学賞に輝いた、読んで損のない作品です。

 

◇◆小出館長のプロフィール◆◇

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小出 元一(こいで げんいち)

慶応義塾大学文学部卒業後、出版社系企業に勤務。

教育、公共事業関連の事業に携わり役員などを務めたのち

2017年4月より千代田図書館館長。

 

小出館長、ありがとうございました!

ご紹介いただいた本は千代田区立図書館に所蔵しています。

この機会にぜひ、ご一読ください。

Posted at:11:35

千代田人セレクション:岩田副館長のおすすめ本

今回は、2015年10月に就任した千代田図書館の岩田副館長に

最近読んだ本からお気に入りの4冊について語っていただきました。

 

『且座喫茶』

いしいしんじ/著

淡交社

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高校時代に少しだけかじった茶道を、7年前より再開しました。

表千家に入門し、月3回のおけいこを行っています。

茶道の世界は着物姿の女性たちに占領されてしまいました。

「男もお茶を」と同年輩の男友だちに声をかけ、同志を引き込み、

アラ還コンビがトリオから四天王になり、いまでは五人男に増殖しています。

数ある社中でも、男性がこれだけ多いのは珍しいそうです。

 

こうした経験を経て出合ったのが、昨年10月刊行の『且座喫茶』です。

書き手は物語作家として定評のある、いしいしんじさん。

一昨年、著者のお顔は、銀座の「gggギャラリ-」で初めて目にしました。

いしいさんの文章に絵本作家の荒井良二さんが絵をつけていくというイベント。

姿かたちも物言いも、きわめてアバンギャルドに見えました。

 

書き出しは、そのイメージ通りです。

 

 先生宅の門をくぐったとき、僕はアロハシャツにジーンズ、

 腕にはかかえきれないくらいの茶花を、巨大な花束にして、

 おみやげに、ともっていった。

 

おけいこをくりかえすうちに、いしいさんは「真剣」になります。

 

 戦国武将たちにとって、茶碗にたたえられた濃茶は、

 あまりに強烈すぎて補色に裏返った、

 みどりの血に見えていたかもしれない。

 

 日々、赤い血にまみれていた戦国の武将たちは、

 みどりの血、光の血を欲し、「和」を求めていった。

 それは、ただ安寧を、長閑さを欲するのとはちがう、

 命がけの「和」だったのではないだろうか。

 

この本では、「真剣」の意味に思いをめぐらせた筆者が

僧侶、牧師、陶芸家、茶杓師、鋳物師、和菓子作家などの茶事や茶会に参加し、

亭主とのやり取りや茶室で感じたことを綴っています。

 

 「帛紗さばきと、聖杯をきよめるしぐさは、ほとんど同じですよ」

 薄茶の席、鐘の残響のような余韻のなか、高橋牧師はにこやかに話す。

 「汝の敵を愛せよ、って、お茶席のことでしょう。

  狭き門から入れっていうのは、つまりにじり口。

  利休の侘茶は、キリシタンの教えと大いに重なるんです」

 僕はこの席に、全身タータンチェックの服で座っている。

 

こんな調子で、いしいしんじの世界に誘っていきます。

「且座喫茶」は、「しゃざきっさ」と読みます。

禅語で、しばらく座ってお茶でも飲もうよ、という意味です。

 

 

『僕の場所』

隈研吾/著

大和書房

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新しい国立競技場の設計を担当することになった隈研吾さんのエッセイ。

建築家を志したのは、東京オリンピックのときに丹下健三設計の体育館に接し、

打ちのめされたのがきっかけというのですから、ふしぎな巡り合わせです。

 

「反建築」「反個人住宅」など刺激的な仕事の源泉は、

マックス・ウェーバー、エンゲルス、吉田健一、梅棹忠夫などの読書から。

森の中にいるような柔らかい光が射し込む空間が評判を呼び、

初年度の来館者数が100万人を超えることが予想されている、

昨夏に開館した富山市立図書館「TOYAMAキラリ」も手がけました。

 

 

『神の棄てた裸体―イスラームの夜を歩く―』

石井光太/著

新潮社

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アジアのイスラム教信者が多い国のフーゾク地帯に住みついて、

生きぬいている人々を「性」の視点から見つめた体験的ノンフィクション。

13歳の娼婦、中年になったニューハーフなどなど、

読み進むのがつらくなるほどの、想像を絶する現実に圧倒されます。

固定観念にとらわれがちな「イスラーム」が、まったく違って見えてきます。

 

 

『かないくん』

谷川俊太郎/文

松本大洋/絵

東京糸井重里事務所

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人は死んだらどうなるのか。

普遍的かつ根源的なテーマに製作者たちは大まじめに取り組み、

文と絵とデザインが協調し合ったすばらしい絵本を作り上げました。

今年度、第49回造本装幀コンクールの「読書推進運動協議会賞」受賞作品です。

 

日比谷図書文化館で1月23日(土曜日)から始まる

特別展「ブックデザイ」の主人公「祖父江慎+コズフィッシュ」が、

ブックデザインを担当しています。

装幀には、図書館をちょっとだけ困らせるような仕掛けも隠されています。

 

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◇◆岩田副館長のプロフィール◆◇

岩田 玄二(いわた・げんじ)

2011年、38年間の編集者生活をすごした講談社を退社。

在職中は、『週刊現代』『ホットドッグ・プレス』などの雑誌、

『日本美術全集』『ディズニーリゾート物語』などの書籍を担当。

2015年、公益社団法人読書推進運動協議会事務局長を退任。

同年10月より、千代田区立千代田図書館に勤務。

 

岩田副館長、ありがとうございました!

ご紹介の4冊はどれも千代田区立図書館に所蔵しています。

この機会にぜひ、ご一読ください。

Posted at:10:30

コンシェルジュ通信Vol.1:コンシェルジュ亀山おすすめの1冊

 

今月から毎月「コンシェルジュ通信」として、

千代田図書館コンシェルジュの視点から本に関する話題を

お届けしてまいります。

今回はコンシェルジュ亀山から、

2015年4月に刊行されたばかりの1冊を紹介します。

 

 

千代田区ゆかりの文学者、泉鏡花。

2013年には生誕140周年ということで、

その作品を美しい絵本にした『絵本化鳥』が発行され、

千代田図書館でも原画展サイン会&親子イベント

開催されたのを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?

 

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あれから2年、『絵本化鳥』の挿絵を手掛けた

イラストレーターの中川学さんによる、

泉鏡花作品の絵草子『朱日記』が刊行されました。

 

『絵本化鳥』は小学生以下のお子さまでも読めるように

鏡花の原文を易しく編集した「絵本」でしたが、

今回の『朱日記』は鏡花の原文そのまま、

中高生~大人向けの「絵草子」です。

 

主人公は、とある小学校の教頭補である雑所(ざっしょ)先生。

五月半ばにもなるのに肌寒い、

風の強い日の昼前から物語は始まります。

 

雑所先生はその前日、

山のなかで赤合羽を着た不気味な坊主に出会い、

その坊主から「城下を焼きに参るのじゃ。」

と告げられたことを気にしています。

 

物語が進むにつれて、不穏な予兆は少しずつ積み重なり、

ついに街は大火災に襲われてしまうのですが、

どうやらその原因はこの世ならぬモノたちの、

恋愛のもつれのようで…。

 

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 『朱日記』(泉鏡花/文 中川学/画 国書刊行会)

 

今回、中川さんの描く『朱日記』の世界は、

モノクロームが基調の画面に「朱色」が効果に使われていて、

すこしずつ高まる火災の予兆が見事に表現されています。

カバーの下には物語のキーワードになるぐみの実

イラストが描かれている、という凝った装丁(写真右)。

 

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本の見返しやヘドバン(中身の背の上下に貼りつける飾り布)も

目のさめるような朱色(写真左)。

扉は日記帳に赤い炎が重なるような凝った演出で(写真右)、

図書館で借りて読むだけではなく、

自分の手元にも置いておきたくなる1冊です。

 

図書館で借りた本を自分でも購入したいと思った時は、

千代田図書館コンシェルジュの「書籍購入サポートサービス」

をご利用ください。

千代田図書館近隣の書店へ在庫確認や取り置きの依頼を行います。

 

『朱日記』発売記念オリジナルアニメーション公開中!

『絵本化鳥』の原画展の際に館内で放映していたもの

と同じスタッフによるオリジナルアニメーションが

コチラから公開されています。

Posted at:15:30

千代田人セレクション:四番町図書館・宮崎館長のおすすめ本②

 

今回は四番町図書館・宮崎館長のおすすめ本紹介、後半をお届けします!

前半の記事は→コチラからどうぞ。

 

 

前回の記事でご紹介した、『ことばと国家』に書かれている

「最後の授業」のような間違いの例も、グローバル化した現代なら

すぐに修正情報が入ってくると思います。

ネットで抗議が殺到するかもしれません。

 

同じくご紹介した『だから日本はズレている』では、

ソーシャルメディアでの炎上についても、その様相を分析し

著者の古市憲寿氏は、自身の体験から炎上への対処法まで

独特のクールな書き方で示しています。

「独特の」と書きましたが、この姿勢こそ大事ではないかと

私は感じています。

誰もが「少し」わかっていることを、きちんと体系立て

根拠を示してまとめることで、その中に新しい常識が

生まれているのだと思います。

だからこそ、多くの人の心をとらえるのでしょう。

 

ずっと以前に私の心をとらえた大切な一冊があります。

私が「社会人」になり、自分の立場が、学生から「大人」となって

責任を感じ、しかも生きていくためには稼がねばならないという

価値観の変遷期に、何が正しいのか、どう生きるのかという

内面の問題と向き合った時、出会ったのがこの本です。

これはその後、現在まで私の傍にある本たちの中の一冊となっています。

 

『論語と算盤』

渋沢栄一/著

国書刊行会

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日本の資本主義の父とも言われる渋沢栄一の著作なので、

経営者のバイブルのようにとらえられているかもしれません。

題名から、「論語」などと見ると敷居が高いように感じますが、

読んでみるとたいへんわかりやすく、仁義道徳と富についての

考え方が述べられています。

たとえば、富を作るという一面には常に社会に恩義があり、

得義上の義務として社会に尽くすようにとし、

「岩崎さんや、三井さんにも是非ひと奮発してもらわねばならぬ」など、

当時の関係が分かる部分など、読んでいておもしろい側面もあります。

 

ただ著者は、岩崎弥太郎、三井高福とは違う生き方をしました。

多くの大企業や事業に関わりましたが、財閥にはなっていません。

この本は、私にとっては生き方の本です。多岐に渡る渋沢の野太い言葉が、

彼の学んできたものと実績の融合で生まれた言葉として心に残ります。

 

全体を見て個々の有り様を意識するバランス感覚が必要だと

私は常々思っています。そのために必要な知識やスキルを、

先人も若者も情報やデータや経験で培っています。

時代は変わっても、国や性別や立場や年齢や様々な違いはあっても

小さくて影響なんてしないと感じても

「個々の活動が世界を作っている」と思うと、

今をきちんと、ひっそりと頑張ることは無駄ではないように感じるのです。

 

皆様の活動の中で、それぞれの使い方で本を手に取ってほしい。

そういうわけで、今日も私は書架の中に立っています。

  

 

宮崎館長、ありがとうございました!

ご紹介の本は、どれも千代田区立図書館に所蔵しています。

ぜひお手に取ってご覧ください♪

 

 

 

Posted at:16:00

千代田人セレクション:四番町図書館・宮崎館長のおすすめ本①

 

区内の様々な分野で活躍している“千代田人”に

おすすめの本を紹介していただく「千代田人セレクション

今回の担当者は四番町図書館の宮崎館長です。

 

いつもにこやかに、おはなし会や絵本の読み聞かせセミナー講師を務める

宮崎館長がおすすめ本として挙げたのは、意外にも(?)骨太な本ばかり。

今回から、二回に分けてお送りします。

千代田区立図書館に所蔵の本ばかりですので、

この機会にぜひお手に取ってみてください!

 

 

『だから日本はズレている』

古市憲寿/著

新潮新書

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「ズレてる」なんて言われると、「社会人」としてはぎくりとしないでは

いられません。この本は、タイトルを見た瞬間に失笑しながら、

何を書いてあるのかページをめくらずにはいられませんでした。

 

若い社会学者である著者は冒頭で、

「日本の中の様々な『ズレ』を本書で明らかにしていきたい」と

言いながら「僕の方がズレている可能性もある」と始めています。

なぜなら、大企業で働いたこともなく、受験に苦しむ経験や、

就活の経験もなく、「既得権益」の半部外者として暮らしてきたからと

自分の立ち位置を明確にしています。

なるほど、自ら客観的な位置に自分を置いている著者が見る

「大人」の日本社会への表現はつい笑ってしまいます。

 

電車の中では読めない。

 しかし、決して面白いばかりの本ではありません。

「強いリーダー」を求める背景を分析して見せ、個々のあり方の

矛盾を示し、むしろリーダーが不在でも大丈夫な

「豊かで安定した社会を築いた」ことを誇ればいいと言います。

「憲法改正草案」をポエムのようだといい、一般的に使われる

「社会人」という言い方が日本独特な事と、その奥にあるものを

分析して見せます。失笑しては、そうだそうだと納得です。

 

戦後の事や自分の若いころの事には、読みながらそんな時代だったと

昔を思い出し、あれ!?著者は20代だったよね!?と、

その資料収集と分析には驚かされます。

 以前に新聞のコラムで、著者が小学生の時のことを書いた記事を

読んだことがあります。夏休みの自由研究ではなく、

普段興味を持ったことを調べて一冊のノートにまとめるということを

遊びのように楽しんでいた様子が書かれていました。

著者のアカデミックスキルは小学生のころから

積み重ねられたもののようです。

司書としての私の立場からは大いに気になるところです。

 

最後の章(このままでは「2040年」の日本はこうなる)は、抱腹絶倒です。

そして本書を閉じると、「では、今どうしたらいいのか」と

考えずにはいられません。

 

『ことばと国家』

田中克彦/著

岩波新書

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最近、日本人としての自分を意識しないではいられないことが

色々とありました。2020年の東京オリンピック、憲法改正問題、

イスラム国の事件…。

そこで、言葉から国家や民族を考えるこの本をご紹介します。

 

人が生まれて母に育てられるとき一番初めに出会うのが

母の言葉であることから「母語」と呼び、

それが第一言語とする考え方を示し、言語に優劣はないが、

言語によって生まれる差別、権力や政治の介入などを

言語学の立場で著したものです。

 

当時、言語学を少し退屈なものと感じていた私は、著者の独特の視点に

驚きながら読みました。またその中で、子どもの頃読んだ

『最後の授業』(ドーテ作)についての記述は印象的でした。

フランスのアルザス地方の小学校で戦時下、フランス語を

禁止されたため、フランス語の先生が母国語に対する意味を感動的に話し

「フランスばんざい」と黒板に書いて最後の授業を終えるという内容で

当時の子どもだった私は、母国語の大切さや言葉で自由になるという

考え方を学び、教科書にも載った作品でした。

 

しかし、実はアルザス地方の人々の母語はフランス語ではなく

その地に独特のアルザス語が母語で、言語的解放運動の問題を

はらんだ作品だったということを本書で知りました。

 社会言語学という立場からの興味深い1冊で、

今こそまた読んで欲しい本です。

 

 

宮崎館長のおすすめ本紹介は次回に続きます!

Posted at:18:00

千代田人セレクション:コンシェルジュ稲川いちおしの"怪談本"

今回は、区内の様々な分野で活躍している“千代田人”

おすすめの本を紹介していただく「千代田人セレクション」をお届けします。

 

今回の担当は、千代田図書館きっての「怪談通」コンシェルジュ・稲川

暑さがまだまだ衰える気配のないこの季節にぴったりの

“怪談本”をおすすめしてもらいました。

 

私は怪談が大好きで、毎日怪談ばかり読んでいます。

もともと母が怪談好きだったこともあり、幼い頃に布団の中で

聴かされるのは小泉八雲『耳なし芳一』『鳥取のふとんのはなし』でした。

やがて自分で本を読む年齢になったときに夢中になったのが、

母の書棚にあった中島河太郎紀田順一郎によるアンソロジー『現代怪談集成』でした。

(※アンソロジー=複数の作家の作品を、ある基準で選び集めた本)

 

『現代怪談集成』

中島 河太郎/編

立風書房

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この本は1982年に上下巻で発売され、

なぜか我が家には下巻しか無かったのですが、

1993年に合本が発売されたのを購入、今でも年に1回は読み直しています。

 

八雲、鏡花、綺堂に百閒などの明治の文豪の作品から、

映画「ゴジラ」の原作者として知られる香山滋など

昭和の作家の作品までが収録されていて、

個別の作品は今ではなかなか手に入らないものも多く、

珠玉の怪談セレクションと言わざるを得ない1冊だと思います。

特に新羽精之の「進化論の問題」小松左京の「骨」はSF風味の作品ですが、

その結末がうっすらと分かりかけてきたときに背筋が寒くなること請け合いです。

 

 

怪談作品と言えば怪談実話を思い描く方も多いと思います。

毎年、夏になると書店やコンビニエンスストアで手軽に読める

怪談実話の文庫本や雑誌が多く発売されますが、

数多ある怪談実話本の中でも、『文藝怪談実話』はちょっと趣が異なります。

 

『文藝怪談実話』

遠藤 周作 ほか/著 

筑摩書房

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泉鏡花や喜多村緑郎らが実際に開催した怪談会が舞台の「田中河内介」の怪談、

佐藤春夫や稲垣足穂が住んだ道玄坂の化け物屋敷の話、

三浦朱門と遠藤周作が一緒に泊まった熱海の旅館で遭遇した幽霊の話など、

文豪が実際に体験したという実話が集められているのです。

本気で幽霊を怖がる思いがけない文豪の一面を垣間見ることもできる1冊です。

 

 

怪談実話のなかでも歴史があるのは、

江戸時代に旗本の根岸鎮衛によって書かれた『耳袋』です。

この本は根岸が同僚や知人から聞き取った

珍談・奇談が集められた随筆集なのですが、

それを小説家の京極夏彦が現代の怪談実話風の語り口にアレンジしたのが

『旧怪談(ふるいかいだん)―耳袋より』です。

 

『旧怪談―耳袋より』

京極 夏彦/著 

メディアファクトリー

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現代の文章なのでとても読みやすく、各話ごとに原文もついていますので、

語り口の変化による怖さの違いも楽しめます。

 

根岸鎮衛は南町奉行を務めるなど、江戸幕府の役人でしたから、

聞き集めた話の中には江戸城の周辺である千代田区が舞台のものもあります。

聞き覚えのある場所や自分が通い慣れた道が怪談に登場すると、

いくら江戸時代の話とはいえ、ぞっとしますね。

猛暑が続くこの夏はぜひ、怪談で涼をとってみてはいかがでしょうか?

 

 

残暑の折、怪談を読んで背筋がヒヤリとするような体験もいいのでは?

紹介した本は、どれも千代田区立図書館に所蔵の本ばかりですので

ぜひ手に取ってみてください。

 

 

Posted at:09:00

千代田図書館長の読書日記

今回は、「千代田図書館長の読書日記」をお届けします。

2012年12月に就任した望月館長に

お気に入りの本について語っていただきました。

千代田区立図書館に所蔵の本ばかりですので

ぜひ、ご一読ください。

 

私の数少ない趣味の一つに「仏像めぐり」があります。

中でも「観世音菩薩さま」―聖観音さま、十一面観音さま、千手観音さま、

如意輪観音さま、不空羂索観音さまなどなど…大の観音さま好きです。

 

観音さまは衆生済度のため修行中の身で、まだ仏の境地に達していない

いわば人間と仏さまの中間にいる存在です。

そして、女体でありながら精神はあくまでも男であって、

その両面を兼ねている…だから力強いのに美しくて色っぽいのです。

と、私は勝手に決めているのですが

このあたりが私が観音さま好きになったポイントでしょうか。

 

ところが、私には仏教心など全くありませんし、芽生えてもこない…

これは冒瀆ではないかなどと、もやもやしていたときに出会ったのが、

千代田区ゆかりの作家のひとり、白洲正子さんの

『私の古寺巡礼』『十一面観音巡礼』でした。

 

『私の古寺巡礼』

白洲 正子/著 

法蔵館

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『十一面観音巡礼』

白洲 正子/著 

新潮社

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“私は初めから「お寺を訪ねる心」なんて上等なものは

持ち合わせていなかったように思います”

というはしがきを読んで、心がすっと軽くなったのです。それに

“やはりほんとうに美しい仏さまは、ただ美しいというだけで、

しぜんに拝みたくなりました”

そう、そうなんです、私も全く同じでした。このままでいいんですね。

それからは、とにかく手さぐりでも、なるべく多くの観音さまにお会いしよう、

そう心に決めて、今も月に一度は各地をめぐっています。

 

とはいっても、白洲さんの日本文化への精通、造詣という点では

群を抜くものがあるわけで、その知識の豊富さは驚嘆に値しますが

でもその文章は清新で、インテリぶりをひけらかすようなところは全くなく、

だから心の奥にすっと入ってくる…。

 

白洲さんの背中を追う、私の「観音めぐり」はまだまだつづきそうです。

 

〈付録〉もう1冊、最近お世話になったガイドブックです。秘仏の開扉は

    圧倒的に18日が多いんです。理由をご存じの方、教えてください。

 

『日本の秘仏』

コロナ・ブックス編集部/編

平凡社

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◇◆望月館長のプロフィール◆◇

望月 千恵子(もちづき・ちえこ)

50年生まれ。

九段中学・日比谷高校を経て武蔵大学社会学部卒業後

出版社に勤務。編集長・役員を務めたのち

2010年より千代田図書館副館長に就任。

2012年12月より千代田図書館館長を務める。

 

文中で紹介された、白洲正子さんの著書は

千代田図書館9階、コンシェルジュブース横の

「千代田区ゆかりの文学者コーナー」に多数あります。

 

 

Posted at:09:00

生物と無生物のあいだ

今日は「千代田図書館長の読書日記」をお届けします。

なにかと慌しい季節ですが、ときには暖かい部屋で

ゆったりと静かに読書の時間を過ごしてみてはいかがですか。

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ばらくご無沙汰しておりました。

最近の私は、福岡伸一ハカセに夢中です。

続けて何冊か読みました。

そのコ―フンを、皆様にも是非お分けしたく思います。

  

『生物と無生物のあいだ』

 福岡伸一/著(講談社現代新書) 
『生物と無生物のあいだ』は、出版されてから20118月までに

29刷りを重ねていて、大ベストセラーとなり、

さまざまな出版関連の賞を受けている。

 

著者の福岡ハカセはマスコミにもさかんに露出され

最近その事がハカセの研究活動に支障を来たさないか、

と心配する声も聞かれる。

有為の研究者を大事にしたいという、読者の声である。

 

この本はハカセの研究分野である、生物と無生物は

「なに」で、「どこ」で線が引かれるのだろう、

と様々な問題提起をしている。

 

  

この部分は正直言って、私の高校卒程度の「生物」教科書の

知識では、理解できないものがありました。

 

しかし、その文章が美しいので、多少理解できない部分が

あっても、つい読めてしまったのです。

DNA解析に関わった歴代の著名な研究者の悪戦苦闘の記述の

部分なんかは涙がでました。

 

少年時代は昆虫少年であり、毎日昆虫と昆虫図鑑に熱中していた

ことを彷彿とさせる文章は圧巻です。

 

実は、ハカセの読書は昆虫図鑑だけではなかったようなのです。

阿川佐和子さんとの対談書では、

ご自分の「センス オブ ワンダー」を次々話されていますが、

その中で、幼少時親しまれた児童書がたくさん挙げられています。

 

『センス・オブ・ワンダーを探して~生命のささやきに耳を澄ます~』

福岡伸一、阿川佐和子/著(大和書房)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『センス・オブ・ワンダー』

レイチェル・カーソン/著 上遠恵子/訳 

森本二太郎/写真(新潮社)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨年出版された『ルリボシカミキリの青』では

「私は虫を集めて何がしたかったのだろう?

 フェルメールでさえ作りえなかった青の由来を、

 つまりこの世界のありようを、ただ記述したかったのだ」

(同書 オビより)

 

 

『ルリボシカミキリの青』

福岡伸一/著(文藝春秋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェルメールの絵については『フェルメール 光の王国』

(翼の王国books/木楽舎)出版されています。

 

機会がありましたら、皆さまも福岡ハカセの世界を

ぜひ一度ご覧になってみてください。

Posted at:09:00

加賀乙彦『高山右近』

12月24日付の日本経済新聞夕刊【文学周遊】にて

加賀乙彦さんの著書『高山右近』と長崎市が紹介されました。

本書は、このブログの「館長の読書日記」でも昨年取り上げた

館長のおすすめの本です。

関連書籍と合わせてぜひご覧ください。

 

千代田図書館長の読書日記  2010年2月24日付

 

日記タイトル「キリシタン大名/町人出身のキリシタン武将

(タイトルをクリックすると過去の記事をご覧になれます↑)

 

『高山右近』

加賀乙彦/著 講談社

 

 

Posted at:18:20

不安のにおい

今日は、館長の読書日記をお届けします。 

 

『精神科医がものを書くとき』

著者 中井久夫

出版社 筑摩書房(ちくま学芸文庫)2009年

定価 1,200円+税

ISBN 978-4-480-09204-5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買ってから気にしつつ、丸2年「つんどく」にしていたもの。

今度ちょうどいい機会を得て、読むことができた。

 

第Ⅰ章から第Ⅱ章は、精神医学概論と、

ご専門の統合失調症についてのもの。

第Ⅲ章に気になる文章があった。

『微視的群れ論』の中の「不安のにおい」というくだりである。

 

においは人や家などにもあり、

旅にでると街のにおいを感じることができる。

 

私がドキリとしたのは、

『においは触れることの予感でもあり、余韻でもあり、

 人間関係において、距離を定める力があります』

と書いてあるところである。

 

あるにおいに引き寄せられ、あるにおいを嫌悪するという事を、

別の言葉で表現すると、こうなるのだ!!

   

時に漠然と感じていたことを、この様に文章でピシリと書かれると

「だから中井先生スキ!!」と言ってしまいたくなる。

 

中井先生が患者と面接していた時、

患者を不安にしてしまう事を言ってしまった。

そしたら、ふいに「そのにおい」が患者の口からにおってきた。

昔、精神病院全体に匂っていたにおい

(いわゆる不潔なにおいではない)であった。

 

これを中井先生は「不安のにおい」と書いている。

 

3月末、生まれてはじめて入院するハメになった。

入院日・手術日が決まった頃、

夫から「ヘンな匂がするネ」と言われ、かなり怒っていたのだが

もしかして、それは「不安のにおい」だったのか―と思っている。

 

そして『不安になった人間が放つにおいというのは、

ひょっとしたら、

他の個体を去らせるような作用をしているのかも知れない。

だから不安になった人が孤独になっていくということは、

大いに考えられるわけです。』

 

だから、隣の精神を病んでいる人が「不安」に陥ることがないように・・・

Posted at:10:00

『マンガはなぜ規制されるのか』

今日は、千代田図書館長の読書日記をお届けします。 

 

『マンガはなぜ規制されるのか 

        「有害」をめぐる半世紀の攻防

著者 長岡義幸

出版社 平凡社(平凡社新書)

出版年 2010年

ISBN 978-4-582-85556-2

参考価格 780円+税 


まずはこの本の紹介として、

平凡社PR誌「月刊百科」No.578 2010年12月号

掲載された出版案内より以下、転載する。

 

『「非実在青少年(*)」規制で話題となった、

東京都青少年条例の改正案。

マンガは「有害」か?

規制の仕組みとマンガバッシングの歴史と現在。

その背景を丁寧に解説する。』

 

* マンガ、アニメゲームなどに描かれた18歳未満

(実在しない青少年)の性的表現物を規制するために、

 東京都があみだした言葉。

   

 

 

マンガはマンガと言うだけで、

親や先生からイヤな顔をされた記憶がある。

しかし最近は

「誰にでも読んでもらえるように、マンガを使って表現しよう」

と言ったり、

「図書館の蔵書構成は、マンガを抜きにしては考えられない」

となってきており、

ではどんなマンガを図書館は収集していくのかを考えている。 

 

現在の図書館は、マンガは思想表現の一つの方法と捉えて、

少なくともマンガと言うだけで、資料選定の対象にはしない

という態度はとっていない。

しかし何を選ぶのかについては、現場は非常に苦労している。

 

図書館で仕事をしている私たちは、

マンガについてもう一度勉強する必要があると思っていた時、

標題の図書が発行され、飛びついた次第。

 

一読した結果グーです!!

 

著者長岡氏の結論は、 

『図書規制は判例がどうであろうと、

 表現の自由に抵触するのは間違いない。

 しかも警察的な発想で規制が行われるのは

 民主主義に反する大きな問題だ。

 それだけでなく子どもを「保護・育成」しなければならない存在

 としてみるのか、子どもを権利の主体としてみるのか

 という二つの子ども観のせめぎ合いでもある。

 表現活動を制限することによって

 一方に偏した多数派の子ども観が「蔓延」してはならない。』にある。

  

マンガは青少年に有害か、否か。

それは規制されるべきか、否か。

戦後だけでも、何回もこの議論が繰り返されてきている。

 

本書の目次によって見ると、

マンガ規制の歴史を1950年代から、つまり戦後から俯瞰している。

内容的には、悪書追放運動・「三ない運動」から説き起こし、

マンガ・劇画ブームによって規制が強まっていく過程を、

国会の動き、各政党の意見、規制推進・反対の運動団体の活動の

根拠としているものなど、丁寧に掘り起こし述べている。

 

80年代後半に「М君事件」が起こり、

「有害」コミックの取り締まりが一気に世論となり、

マンガ規制の動きが再度強まってきた。 

「おたく」という言葉が流行語になり、

存在そのものが恐れの感情を持たれたように記憶している。

そして「児童ポルノ禁止法」が成立する。

  

マンガの『性的・暴力的・残虐的描写を見ることで、

青少年の判断能力や常識、価値観が歪められるのか。

健全な育成が阻害されるのか。

そればかりか、内容に影響をうけ性犯罪や非行を

誘発するおそれさえある』と言う事なのか。

その根拠があるのか。

 

これらの回答に相当する、

最後10ぺージ余にわたる記述は圧巻であり、明快である。

最初に書いた著者長岡氏の結論に同意するか否かは別にしても、

いま世界に向け日本文化を代表して担っている感のあるマンガの、

それぞれの時代・歴史のなかで扱われてきた模様を見てみるのも面白い。 

Posted at:09:00

館長のブックトーク「野口英世」より

10/23~11/9の読書週間中、平日の昼休みに開催した

「大人のためのランチタイムおはなし会」。

最終日は、館長によるブックトークで、6冊の本が紹介されました。

 

▲このイベントを楽しみに、毎回来てくださった方も。

 

ブックトークとは、あるテーマに沿って複数の本を紹介する

もので、1冊の本を起点に読書の世界が広がっていく面白さ、

読書の醍醐味を知っていただくためのものでもあります。

 

今回の「野口英世」をテーマにしたブックトークでは、

どんな本が紹介されたのでしょうか?

 

《起点となる1冊》

『生物と無生物のあいだ』

福岡伸一・著 講談社現代新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福岡さんが米国ロックフェラー研究所に在席していた頃、同図書館内で

【Hideyo Noguchi】のブロンズの胸像を見つけたこと、同研究所での

野口英世の評価が、日本国内のそれとは異なっていたこと、などが

書かれていて・・・という話から、ブックトークが始まりました。

 

《小説で知る野口英世》

『遠き落日 上・下』 渡辺淳一・著 角川文庫

 

 

貧しい環境で生まれ育った野口英世が、医学の道を進むため、

また、単身アメリカへの出発に向けて、どのように資金を集め、

いかに成り上がっていったのか。若き無名時代の苦悩の日々

から死にいたるまでがよく描かれている。

表紙画に女優の三田佳子と牧瀬里穂の写真が載っていますが

この作品は、同名タイトルで映画化もされている。

 

《野口英世も一時勤めた研究所の雷おやじ》

『ドンネルの男 北里柴三郎 上・下』 

山崎光夫・著 東洋経済新報社

 

 

医学者・細菌学者で、「北里研究所」設立者の北里柴三郎の伝記。

野口英世は、北里の伝染病研究所に勤めた後で、ロックフェラー研究所

に移った。 この伝記には、野口英世のほか、北里を取り巻く

さまざまな人物が登場する。当時、陸軍軍医総監・陸軍省医務局長

だった森林太郎(のちの森鷗外)と、「脚気」の原因をめぐっての確執、

さらには森をはじめ東大派との派閥抗争など・・・も描かれている。

当時「脚気」は海軍・陸軍軍人の病死の最大の原因だった。

 

《「脚気」の予防法を確立した人》

『白い航路 上・下』 吉村昭・著 講談社文庫

  

 

その「脚気」の予防法を確立した、高木兼寛の生涯を描いた作品。

(高木は、東京慈恵会医科大学の創立者。)

「脚気」の原因をめぐっては、陸軍軍医部を代表する森ら東大派が

<脚気菌説>を固守し、対して北里や、海軍軍医総監の高木らは

<栄養学説>を打ち立てた。派閥闘争ともなったこの対決は、

日清・日露戦争を経て、森・高木両者の死後に結着した。

 

《日本の近代医学の先駆者たち》

『日本医家伝』

吉村昭・著 講談社文庫

前述の高木兼寛、日本初の人体解剖を行った山脇東洋、「解体新書」を翻訳した前野良沢など、近代医学の先駆者12人の生涯を描いた評伝。

 

 

 

 

  

《幕末~明治という時代》

『模倣の時代 上・下』

板倉聖宣・著 仮説社

 

 

 

 

 

 

 

 

幕末~明治を一言であらわすとしたら、「模倣」の時代だったと

言えるのではないか。

本書については、あとがきから一部抜粋する。

「「この本の書名を何と名付けるか」ということについては、ずいぶん

いろいろと考えました。最初は単純に『脚気の歴史』と考えていたの

ですが、この本の内容はそんな表題で考えられるのよりももっと多数

の人々の関心を捉えることができると思われてきたので、

もっと小説風の表題にしたくなってきたのです・・・」

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・* 

起点となる1冊の本『生物と無生物のあいだ』から、脚気の歴史を

通して当時の社会や思想について知ることのできる『模倣の時代』

まで、「野口英世」というテーマで6冊の本が紹介されました。

 

ブックトークは、自分が滅多に手にとらない分野の本でも

思わず読んでみたい!と思わせられる巧妙なトークと、

1冊の本から、こんな風に読書の世界を広げていくんだ!と

本の読み方を知ることのできる点が最大の魅力です。

みなさんも今後「ブックトーク」という単語を耳にしたら、

ぜひ、メモを片手に、ご参加くださいね。

 

Posted at:11:10

お茶小・小林校長先生がお気に入りの本

前回の「千代田人セレクション」でご登場いただいた

お茶の水小学校の校長先生が、子どもの頃に読んでいた

お気に入りの本を教えてくれました。

夏休みにピッタリの本なので、皆さんもぜひ手にとってみてください♪

※以下ご紹介するものは、先生が当時実際に読んでいたものとは

 訳者・出版社などが異なる場合もあります。

 

『君たちはどう生きるか』吉田源三郎・著

*先生が中学生のときに読んで、影響を受けた本

 

 

『二年間の休暇』

ジュール・ベルヌ作 福音館書店 

*『十五少年漂流記』と内容(原作)は同じです。

 

 

 

 

 

 

 

 

『飛ぶ教室』

ケストナー・著 丘沢静也・訳

光文社古典新訳文庫 光文社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『三国志』

吉川英治・著 

吉川英治歴史時代文庫 講談社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生のお母様がハヤカワミステリーをよく読んでいて

ご自宅に本がたくさん揃っていたことから、

先生も本を読むようになったそうです。だから

「怪盗ルパン」や「シャーロック・ホームズ」も

先生の大のお気に入りなんだとか。

 

また、子どもの頃に読まれた本ではありませんが、

もう一つ、先生のおすすめの本をご紹介します。 

 

 

『おはなし千代田』 千代田区 平成元年

 

千代田区にまつわる学校やひとびとの話、江戸城、町のうつり変わり、言い伝えやくらしのあれこれ、などを収録。小中学生向けに発行されたようですが、千代田区を知るのに欠かせない一冊です。駿河台の主婦の友社裏の下宿旅館八幡館(現在の駿河台1丁目2あたり)に宿をとった宮沢賢治のはなし、少年時代の漱石のはなしなど、作家にまつわる話も満載です。

 

 

Posted at:17:40

1冊の本から、遺跡を訪ねての夢

千代田区内のさまざまな分野で活躍している“千代田人”が

おすすめの本を紹介する「千代田人セレクション」をお届けします。

今回は、以前「まちの読書活動」の取材でお世話になった

お茶の水小学校の小林校長先生が【きっかけ本】を教えて下さいました。

とても心温まる、まるで1冊の本になるような、おはなしです。

**************************** 

 

~1冊の本から、遺跡を訪ねての夢~

 『児童百科事典』全24巻 平凡社(1951)

  

私は、小さい頃から世界の遺跡に興味・関心がありました。

それは、今の世界を築いた地球上の先人の文化・文明の証

だからです。そのきっかけを作ってくれたのは、小学校時代

に父が買ってくれた平凡社の『児童百科事典』でした。

さまざまな事柄が掲載されている百科事典に、私は夢中になって

第1巻から最後の第24巻まで何度も読み直しました。

 

その中で、特に興味・関心をもったことは、

第1巻に記載されていた「イースター島」でした。

南太平洋の真ん中にある小さな島「イースター島」にある

「モアイ」の石像、誰がいつ、何の目的で作ったのか、

世界の七不思議のひとつであるこの石像を、ぜひ自分の目で

見たいと思う気持ちが強くなりました。

 

ようやく教師になって27歳のとき、

念願の「イースター島」に行く旅に出ました。

その頃は、飛行機の直行便がなく、アメリカのロサンゼルス・

ペルーのリマ・チリのサンチャゴを経由し、

3日を経て、ようやく南海の孤島に到着しました。

すぐに巨大なモアイの石像を見たときは、

長年の夢が実現したことに、感動しました。

 

その後、遺跡を訪ねての旅を数回しました。

今、世界遺産で有名になったペルーのマチュピチュ、

ナスカの地上絵、パキスタンのモヘンジョダロ、

アフガニスタンのバーミアンの遺跡等です。

 

今は、海外へはなかなか行けませんが、

国内の遺跡や歴史的な史跡を訪れています。

特に、秋に開催される奈良の「正倉院展」には

時々行っています。

 

このようなきっかけを作ってくれたのは、

幼いときに父の買ってくれた百科事典でした。

 

さて、私の夢は私だけでなく、

自分の教えた子どもにも伝わりました。

麹町小学校での担任をしている時に、

イースター島の話を子どもたちにしました。

 

その話を聞いていた山本君は、モアイに興味をもち、

大学時代にアルバイトでお金を貯めて、

イースター島に行ってきました。そのお土産に、

モアイの石像のミニチュアを私に、届けてくれました。

今、私の傍に二体のモアイのミニチュアが置かれています。

 

[左]山本君からのお土産 

[右]小林校長先生がお持ちのモアイ像

 

この二体のモアイは、私の宝物です。

自分の夢を、子どもが受け継いでくれた喜びを感じます。

教育に関わる人間として、このような心のリレーを、

これからも大切にしていきたいと思います。

  

★紹介者プロフィール★  

所属 お茶の水小学校 校長

名前 小林勇司 

教師生活37年目。大島も含む、都内各地

の小学校で勤務。千代田区立昌平小学校、

千代田小学校の教頭を経て、お茶の水小

学校長に就任2年目。学生時代に図書館

でのアルバイト経験もあるという読書家。

Posted at:18:30

この本の魅力を追求したい!

今日は千代田区内の様々な分野で活躍している“千代田人”が

おすすめの本を紹介する【千代田人セレクション】をお届けします。

前回に引き続き、千代田図書館コンシェルジュの押田径子さんに

おすすめの本を聞きました。

***************************

 

千代田図書館コンシェルジュの押田径子さんが、

進路を決めるきっかけになった【きっかけ本】

 

『ライ麦畑でつかまえて』

著者 J.D.サリンジャー

訳者 野崎孝

出版社 白水Uブックス

定価 830円

ISBN 4-560-07051-2


 

進路を決めるきっかけになった本です。

短大時代、ヘミングウェイやサロイヤンなどの短編小説を学びました。

物語の背景にその時代の出来事が影響を与えていることを知った時、

小説の面白さと奥深さを感じました。

身を隠すように生活する「謎めいた作家」サリンジャーに魅かれ、

この作品に出会いました。主人公ホールデンが愛おしく、

作品の魅力を追求したいと思い、短大から大学への編入を志しました。

 

the catcher in the rye”になりたいという夢を抱く

ホールデンは、インチキな大人の世界を拒否し、

無垢な子供の世界に留まることを望みます。

それを「甘え」と言う人もいるかもしれません。

インチキへの反抗は、無垢への固執が原因と思いますが、

子供が持つ純粋なものを守るための手段であり、

それは、自分の存在を確実に認められるものを見つけるために

苦悩する若者の姿であると私は感じました。

 

大学へ編入後、私は「万人に共通するホールデン的経験」と

テーマを定め、卒業論文を書きました。

本が出版された1951年、この50年代アメリカの時代背景や、

16歳という多感な青年期の心の動きを知るため、

それらに関する本を読みながら理解を深めました。

物語にまつわるさまざまなものへ興味が広がり、

新しい世界を知るきっかけにもなりました。

 

ホールデンの最愛の妹フィービーが、雨の中、回転木馬に

乗る姿を、優しく見守る彼の姿が印象的です。

卒業旅行でニューヨークへ行き、ホールデンが歩いた

セントラル・パークやアメリカ自然史博物館を訪れた際は、

好きな人に会いにいったような気分になりました。

 

青春時代を懐かしみながら、また、ニューヨーカー気分を

味わいたい時に読んでみるのもおすすめです。

 

 

★紹介者プロフィール★

所属 千代田図書館

担当 コンシェルジュ

名前 押田径子

図書館コンシェルジュ歴4年目。

図書館内や神保町の「本と街の案内所」

では、本探しのお手伝いや街案内の全般

を行い、イベント等では司会も担当する。

Posted at:18:30

ありふれた日常の中の神秘性に気づいた本

この「千代田人セレクション」カテゴリでは、区内の様々な分野で

活躍している“千代田人”におすすめの本を紹介していただきます。

初回となる今回は、千代田図書館コンシェルジュの押田が

 ★何度も読み返してしまう【バイブル本】

 ★人生の岐路での進路を決めた【きっかけ本】

の2冊を紹介します。(2回に分けてお届けします。)

*******************

 

千代田図書館コンシェルジュ押田径子さんが

何度も読み返してしまう【バイブル本】

 

『影法師』より「もし」

著者 遠藤周作

出版社 新潮文庫(昭和49)

参考価格 440円

ISBN 4-10-112307-1

 

 


 

大学時代に出会い、年に一度は読み返しています。

恩師が一番好きな本が「もし」でした。

厳しいことで有名な先生でしたが、授業は、

専門のアメリカ文学の他、さまざまな本や先生ご自身の

体験にまつわる話がとても興味深く、朝一番の授業を

毎回楽しみにしていました。その先生が好きな本と知り、

早速読んでみました。ちょうどその頃、私自身が初めて

経験する大きな壁にぶつかっていた時でもありました。

 

作品の中で、「僕」によってモニックさんの人生が大きく

変わったように、自分が他人の人生を横切ることで、

相手の人生を大きく変えてしまうことがあります。

「もしあの時あの人と出会わなかったら・・」というように、

「もし」という偶然には、実は大きな意味があるのではないか

という作者の思いに強く共感しました。

さまざまな偶然の重なりの中に、今の自分が在ることに気づいた時、

自分に起きた出来事や出会った人々が

とても貴重に思えました。また、普段の何気ない生活が、

魅力的に感じるようにもなりました。

 

当時ぶつかっていた壁を今は乗り越えています。

壁の前でもがいていた時期に、「もし」が重なり、

さまざまな出会いがあり、

今の自分へつながる方向へ導かれたように思います。

図書館では、ほんの一瞬の挨拶や会話を繰り返しながら、

毎日たくさんの人に出会います。大げさかもしれませんが、

その一瞬が誰かにとっての「もし」につながるかもしれない

と考えると、心地よい緊張感が絶えません。

 

わずか16ページの物語ですが、ありふれた日常の中にある

神秘的な出会いに気づくことができるはずです。

どんな人にもどんな状況にもおすすめします。

 

★紹介者プロフィール★

所属 千代田図書館

担当 コンシェルジュ

名前 押田径子

図書館コンシェルジュ歴4年目。

図書館内や神保町の「本と街の

案内所」では本探しのお手伝い

や街案内の全般を行い、イベン

ト等では司会も担当する。

 

 

Posted at:10:00

至れり尽くせりのブックガイド

書店では“20代のうちに読んでおきたかった”本が人気ですね。

今回の「千代田図書館長の読書日記」で取り上げる本は、

大学新入生向けに書かれてはいますが

社会人の教養としても、はずせない本101冊が紹介されています。

本を読む時間がない!人にこそ、おすすめの本かもしれません。

それでは、千代田図書館長の読書日記(6)をどうぞ。

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

『大学新入生に薦める101冊の本』

編者 広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト

出版社 岩波書店(2005)

サイズ 

価格 1,400円+税

ISBN 4‐00‐023763‐2


 

 

『大学新入生に薦める101冊の本 新版』

編者 広島大学101冊の本委員会

出版社 岩波書店

サイズ 

価格 1,400円+税 

ISBN 978-4-00-023781-9


 

旧版から5年経って、新版が発行された。

旧版発行時に入学した学生が、様々な感想を残して

卒業したのだろう。

それらを反映してか、新版の推薦図書がだいぶん

変化している。章建てもすっきりした。

 

また、この本を創る体制として、

全学的な編集委員会がつくられており、

かつ、実務支援として、広島大学教育室教育企画グループの

個人名の方がちゃんと載っている。

 

因みに旧版では【関係者・執筆者一覧】として、

企画・編集、原稿査読(匿名)、IT技術支援、

調査支援(大学図書館の司書が関わったのかな)、

実務支援がそれぞれ個人名で出ている。

更に私の目をひいたのは、

財政支援として、大学学部名、病院名が

出ていることである。

 

これを眺めていると、プロジェクトの方々の、

発行に漕ぎつけるまでの産みのご苦労が

『私には』わかるのだ!!

 

新版は全学プロジェクトで企画編集され、

全学的な協力の下で完成したと書かれている。

体制的にも整備が進んだという事だ。

 

さて、この2冊の内容について。

新入生に薦める(つまり是非読んでもらいたいのだ)

図書ということで、至れり尽くせりの内容である。

 

新版の構成は

1      教養への誘い(教養課程がまだあるのかしらん)

2      人間の記録

3      パラダイムを超えて

4      戦争と平和への希望(広島らしい・・・)

5      現代の重要問題

6      本の買い方選び方(面白い。思わず笑っちゃいました!!)

索引(著者名・書名・事項)

  

となっており、それぞれに推薦する図書が、

難易度を示す★の数で示され(旧版のみ)、

見開き2ページに推薦者の署名入りで、

推薦理由が書かれている。

 

この文章は、当該図書の要約でもあるので、

実はこれを読むだけで、

「本を読んだ気になってしまいがち・・・」

 

同時に、著者の簡単な経歴と推薦図書が書かれた時代背景、

「さらに読みたい人」に薦めたいものを挙げているコラムがあり、

大学新入生に薦める読書案内として、光っていると思う。

Posted at:17:05

凪を求めて南木佳士を読む

今日は千代田図書館長の読書日記をお届けします。

 

『からだのままに』

著者 南木佳士(なぎけいし)

出版社 文春文庫(2010年)

価格 495円+税

ISBN 978-4-16-754516-1

 


 

この作家の作品は、半分ほどは読んでいる。

同年輩の友達に自慢げに言ったら、

「凪(南木)シンドローム?」と返された。

凪か・・・ ウマイ!

私はこの作家の作品に、凪(なに)を求めているのか。

呼吸器外科医を長年務め、

毎日苦しみぬいて死をむかえる患者を看取っているうち、

自身はパニック障害に陥り、それからうつ病を患い、

病院勤務もままならない日日が続き、

登山をすることで病気回復の「道」を見つけつつある。

 

『ダイヤモンドダスト』で第100回芥川賞受賞。

いわゆる本業を手控えたり辞めたりせず、

今も二足の草鞋をはいて、

苦しみながら書くことも辞めていない。

 

この作家の作品は、読むことが気持ちの負担にならない。

辛い事を「辛い」と書いているのに、

読んでいる私の気持ちが辛くならない。

こんな物語が、時として無性に読みたくなることがある。

 

これは私が「凪」を求めているのかも知れない。

 

どの作品にも、自身の家族(特に父親、祖母)について、

東北で過ごした医大生の生活模様、自身のパニック障害

発症からうつ病を患うようになるまで、が必ず出てくる。

 

上記の事項をいくつか組み合わせて物語が仕立てあげられ、

1冊の本が出来上がっているように思う。

新刊書を読んでいても、そろそろ「あの」事が出てくるな

と思うと、必ず出てくる・・・この嬉しさ!!

 

しかし読むたびに何となく飽きてきて、

もう読むものかと思っても、新作が出ると手にとってしまう、

まさに「南木シンドローム」に陥ってしまっている。

 

最新刊『からだのままに』の登山のくだりを読んでの大発見。

 

南木式「なぜ山に登るのか」

 

「・・・略・・・からだの重心を左右に移動させつつ、

いくらか前傾して進む。ゆっくり、ゆっくり。

すると、登っているという意識が消え、自分がただそういう

行為だけが可能な動物に変容してゆく錯覚にとらわれる。」

 

だから結果として、山に登っていることになる・・・ということ。

 

私も少し山登りをするので、このフレーズをもじって

「そこに山があるから」に変え、

「からだの重心を左右に移動させることで、

登っているという意識なく、山に登っているにすぎない」と。

Posted at:17:20

認知症に罹った人間の悲惨さ

今日は、千代田図書館長の読書日記をお届けします。 

 

山田稔作品選『残光のなかで』より 「リサ伯母さん」 

著者 山田稔

出版社 講談社文芸文庫(2004年)

価格 1200円+税

ISBN 4-06-198371-7

 

 


認知症を書いた作品はたくさんある。

私について言えば、

認知症患者になってもいい歳には不足しないので、

とにかくどんな知識をも欲しくて、

手当たり次第に読んだり、観たりしている。

  

どれもこれも身につまされる。

 

認知症患者の外見・行動の経年変化や、

看護する側の人の大変さについては

どの本や映画等にも必ず出てくるが、

今回は、山田稔著「リサ伯母さん」を紹介したい

 

認知症に罹った人間の“静かな”悲惨さが

澄明な文体で書かれていて、ことばそのものが

読んだ直後にじわっと滲みてくる。

 

 

リサ伯母さん――

「僕」の母の姉に当たる人。

幼児期の僕にとってはとても大切な人であった。

しかし、この人の生い立ちや境遇については実はよく知らない。 

 

いつも白いボンネットを被り、やはり白い、裾のひらひらした

ドレスを着て微笑んでいる。そばによると好い匂いがする・・・

  

僕はパリに留学する時、リサ伯母さんからリュクサンブール公園

のマロニエの葉を1枚送って欲しいと頼まれた。

しかし伯母さんの死の床には間に合わなかった・・・

  

でもこの葉は、僕のパリ留学の時に拾った物ではなく、

一家3人でパリに行った時、妻が拾ったものだという・・・

あんなに慕わしいリサ伯母さんを、妻は「存在さえ否定する」のだ。

あろうことか、僕は自殺した一人息子の記憶さえ混乱している――

 

 

夫も妻も日毎に認知症が進んでいく。

こうなると、どちらの記憶が正しいのかという事は、

問題では無いのかもしれない。

認知症という病気について、リサ伯母さんという美しい人と、

一人息子の自殺ということを介して、見事に描いている。

 

 

★山田稔(やまだ・みのる)

1930年、福岡県門司市生まれ。フランス文学者、翻訳など多数。

  

 

Posted at:18:10

『最終講義』

今日は千代田図書館長の読書日記をお届けします。

千代田図書館の書庫から発掘した1冊だそうです。

 

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大学の卒業式の季節です。

 

かつて、『諸君は肥った豚より、痩せたソクラテスになれ』という名言が、

贈る言葉となった卒業式がありました。

 

ところで、大学の先生方の「最終講義」も、先生方の卒業「式」ですよね。

10年以上前に出た本ですが、次のようなタイトルのものがあります。

  

『最終講義』

編者  中村真一郎/坪内祐三

出版社 実業之日本社(1997)

サイズ 545p 

ISBN  4-408-10256-3

 


 

この中には19名の方々の最終講義録が収められています。

これらは殆どマスコミでも取り上げられた名最終講義です。

目次から拾うと、

辰野隆氏・西脇順三郎氏・矢内原忠雄氏・冲中重雄氏・中根千枝氏・・

それぞれ学問の世界でも一時代を築いた方ばかりです。

 

それらの中から、私の独断と偏見で、一つの最終講義を取り上げてみます。

  

冲中 重雄

演題:内科臨床と剖検による批判  

1963年3月4日 東大医学部内科講堂

 

 

 

この講義以来、「冲中先生の誤診率」という言葉で、

マスコミは報道しました。

医者が誤診をするという事が、まずショックでした。

誤診については今では盛んにマスコミが報道していますが、

1960年代はあんなエライ(東大教授)先生が?と、

俄かに信じられなかったですね。

 

最終講義は、死亡診断書と剖検との統計上の誤差、

冲中内科における年度別剖検率、年度別誤診率、・・・と続き、

以下の内容で結ばれました。

 

『わたしどものみずからの反省のために苦い経験をまとめた

 のでございます。しかし、時には剖検いたしましても、

 臨床症状を十分に説明しえないものもあります。

 ・・・それから剖検上、予期した臓器に病変を認めましても、

 その病因とか、発生機序の不明なことがあります。』

 

 中略

 

講義はまだまだ続きます。

そして・・・疾患別の誤診率をそれぞれ述べた後、

 

『平均しまして14.2%となるわけです。』 

 

 中略 

 

『こういったことをみますと、やはり正しい経験というもののためには

 剖検という試練がどうしても必要であるということを、

 こういった数字がよく示しておると思います。

 自分では当然正しい診断と思ったのが剖検ではとんでもないものがでてきた。

 こういう誤診があるのであります。』

 

 中略

 

『・・・その言葉を、学生諸君にお伝えして、

 わたくしのこの最後の講義を終わりたいと思います。

“書かれた医学は過去の医学であり、目前に悩む患者のなかに

 明日の医学の教科書の中身がある”というのです。

 長らくご清聴ありがとうございました。』(鳴りやまぬ拍手)

 

 

Posted at:18:18

キリシタン大名/町人出身のキリシタン武将

今日は千代田図書館長から読書日記が届きましたので

ご紹介します。

 

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NHKラジオ第一で毎週土曜の朝に放送されている

「ラジオあさいちばん」で、今話題の本の著者に話を聞く

コーナー「著者に聞きたい本のツボ」から1冊。

 

ゲストで呼ばれていた加賀乙彦さんに興味がわき、

まず手に取った著書がこれ。

 

『高山右近』

著者:加賀乙彦

出版社:講談社(1999年)

参考価格:¥1,900+税

ISBN:4-06-209831-8

 


歴史上の人物、高山右近については、以下の程度の人物事典的な

知識は私にはあった。 

  

「キリシタン大名」と呼ばれている。

天正15年(1585)秀吉の伴天連追放令で、忠勤か信仰かの

選択を迫られ、断固として信仰を選び除封された。

加賀前田家家臣となる。

その後、家康の禁教令によりマニラに追放される。

難儀の末到着したが、その地で64歳の生涯を終えた。  

 

キリシタン信仰を持っていることが、

迫害を受ける理由になった歴史上の人物で

「南海の美少年」天草四郎、

「歴史に翻弄された悲劇の女性」細川ガラシャなどに比べ、

この人の伝記は少ないと言われている。

  

作家加賀乙彦は、史実に添いながら縦横無尽に高山右近を動かし、

「伝記小説」を創り出した。

自身もキリスト教信者であり、精神科医でもある作家のペンで

創出された高山右近は、読む者の身に迫って、私は圧倒された。

 

①今でいえば、職場で意見の合わない同僚との

「大人の付き合い」の喜怒哀楽

 

②仏教における極楽浄土と、キリスト教における天国の

 意味の微妙な違い

 

③信者でない者がキリスト教の教義について抱く素朴な

 疑問について、登場人物をして適切に語らせている

 

 

など、この小説から示唆されるものは多くあった。 

図書館に勤務しているものとして心に止まった事が一つ。

 

追放されマニラに向かう船が時化にあい、積み込んでいた書物が

汚水にまみれた。

しかし、高山右近はぜひともまた読める状態にしようと決意し、

その再生作業を始めた。

作業を手伝う彼の幼い孫たちに、書物を中にして、

昔の思い出などをかたる・・・。

 

年上の者から年下の者へ経験・知識を伝えていく場面である。

 

  

キリシタンつながりで、もう1冊。

 

同時代のキリシタン武将・小西行長の場合、

結局、高山右近になれなかった人・・・と言われる事がある。

そこに逆に親近性があるともいわれる。

町人(堺)出身のキリシタン武将の生涯は

また別の信仰生活があるのだろう。

 

『鉄の首枷 小西行長伝』

著者:遠藤周作

出版社:中公文庫(1979年)

≪絶版≫

※中公文庫ワイド版で2005年に出版されています。

 


※文庫本カバーより・・・ 

戦国の過酷な権力者太閤秀吉の下で、世俗的栄達の野望と

信仰に引き裂かれ、無謀な朝鮮への侵略戦争では密かな

和平工作を重ねたキリシタン武将小西行長の面従腹背の人生を

克明に描く著者会心の傑作。 

 

 

 

 

Posted at:18:55

久々に読んだ「熱い」本

このブログを運営している千代田区読書振興センターの活動拠点は、

千代田図書館の事務室内、館長デスクの目の前です!

 

仕事の合間に聞く館長の話は、ジョークを交えながらの愉快な小話から

何かを考えるきっかけとなる深い話までと様々で、飽きることがありません。

 

そこで、このカテゴリでは、そんな館長の「読書日記」を

ブログ読者の皆さんに公開します!

最近読んだ本や、これまでの人生で出会った本などについて、

千代田図書館の新谷館長がざっくばらんに綴ります。

 

人生経験も長い館長の読書日記です、どうぞお楽しみに!

 

 

『君も精神科医にならないか』

著 者: 熊木徹夫(くまき・てつお)

出版社: 筑摩書房(2009)ちくまプリマー新書

大きさ: 174p

ISBN : 978-4-480-68828-6

定価 : 760円+税 

≪対象≫ 中学生~一般向け

≪館長メモ≫ 街の本屋でいつもチェックしている

シリーズ最新作。強烈なメッセージを発していた。


 

 

映画やテレビドラマの中で活躍する医者はカッコいい!!

 
この本の著者も、とてもカッコいい。
 
何が?
 
まずカルテは、
『公式文書だから決しておろそかには書けないが、
あえて(患者の)将来予想を書きこむ』ことにより、
懸命に考える医者としての自分を鍛えていく。
 
また患者と医者の認識の幅を確認しあう為に言葉があるという。
しかしその言葉は、
『双方を傷つけることがある取扱注意』の『精神科医のメスである』
と認識して、細心の注意を払う努力をするという。
 
そして、精神科医だけに限らず、一般的にも専門家になるとは、
『退路を断つということ。
「私にはできません」「私にはわかりません」ということを言わず、
何とか決着をつける、
そこまでいかなくともある程度形を成すところまで持ち込んでいける』
という事である。
 
『体験の集積が必ず成長を支える』
これは嬉しい言葉ではありませんか。
 
貴方が医者でなくても、まして精神科医になりたくなくても、
この本の著者が発するメッセージの、多くの事が胸に落ちる事請け合い。
  
久々に「熱い」本を読んだ。

ちなみにこの著者の恩師の一人は、精神科医で作家の中井久夫氏である。

 

 

・・◆◆ 新谷館長のプロフィール ◆◆・・

 

 新谷 迪子 (しんたに・みちこ)

 41年生まれ。

 大学卒業後、66年より大学図書館に勤務。

 その後、いくつかの公共図書館を経て、

 2000年、横浜市中央図書館を定年退職。

 09年4月より、千代田区立千代田図書館長。

 

Posted at:12:20