千代田図書館長の読書日記


今回は、千代田図書館の小出館長が2022年の仕事初めで目に留まった一冊について綴った「千代田図書館長の読書日記」をお送りします。

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明けましておめでとうございます。

新型コロナ感染症はオミクロン株が不穏な動きを見せて心配な日々が続いています。皆さまはどんな年末年始を過ごされたのでしょうか。

私は奈良から京都へと足を延ばしたのですが、京都では栂尾高山寺の石水院を訪れ、有名な「鳥獣人物戯画」を目にする機会を得ました。

深閑とした山中の庵にあって、擬人化された動物を描いて白眉とされる甲巻を見ていると、昔は動物も本当にこんな風に遊んでいたのではないかと、不思議な感覚に襲われたのが印象的でした。

2022年仕事初め、事務室に入って企画担当者の机に、昨年秋に府中市美術館開館20周年記念に開催された展覧会公式図録『動物の絵』という一冊が置かれているのが目に入りました。
副題には「日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」とあります。実際そのまま日本とヨーロッパの動物の絵183点が収録されています。

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『動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり』

府中市美術館/編著

講談社

展覧会の図録ですから当然絵が紹介されているのですが、秀逸なのは解説文です。

仏教に根ざし、動物への仲間意識が感じられる日本の動物観と、動物を人間より下に位置づけるキリスト教的な観念の違い。そしてヨーロッパにおけるダーウィンの進化論による動物観の転換。ヨーロッパ絵画における約束事であった象徴性や脇役としての動物の解放。こういう解説はわかりやすく、腑に落ちることが多い。

若冲、応挙、光琳、宗達、ゴーギャン、ピカソ、シャガール、そして鳥獣戯画も登場します。古今東西の動物への眼差しは、長い歴史的文化背景の流れの中で、人それぞれの特異な価値観に支えられて、多種多様に可視化されてきたのだと感嘆させられます。

2022年の干支は虎。永瀬雲山の竜虎図、尾形光琳の竹虎図、松井慶仲の虎図あたりを見て、笑顔で始める一年にしてみませんか。

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Posted at:13:40