千代田図書館長の読書日記


皆さん、明けましておめでとうございます。本年も「ちよぴたブログ」をよろしくお願いいたします。

新年はじめの記事は「千代田図書館長の読書日記」をお送りします。


2020年はコロナ禍に襲われて思いもよらない年になりました。今年はどんな年になるのでしょうか。できれば明るい出口が見えてくることを祈るばかりです。

ただ、家にいる時間が増える現実は、「本を読む」にはむしろ好都合な状況と言えるでしょう。そして、新たに出版される本はもちろん魅力的なのですが、どこか家の隅に眠っている本を引っ張り出してみるのにも良い機会かもしれません。

そう思って、私自身が本棚から引っ張り出したのは、安部公房『砂の女』(新潮社)。中学生のころ本棚に並んでいたのを見つけて読んだ記憶はあるものの、ただ暗いイメージだけが残っているばかりで、どんな内容だったかまるで覚えていませんでした。しかし、読み始めると何と一気読み。

210101-1.jpg

『砂の女』

安部公房/著

新潮社


そこである作品を思い出しました。著者の作品は難解で読みたくないという人が少なくないのですが、おそらくこの作品なら大丈夫。「赤い繭」

210101-2.jpg

「赤い繭」(『安部公房全集 12』に収録)

安部公房/著

新潮社

5分もあれば読破できます。抽象的な内容の物語ですが、文章も粗筋も平易。どんな解釈でも構わないでしょう。解釈の仕方そのものが、その解釈をした読者の世界観を表すような気がします。こんな作品はなかなかお目にかかれません。

もっとも、あまりに短い作品なので千代田図書館の中では全集から見つけていただくことになります。それに、この作品だけでは時間的に物足りないと言われそうなので、少し長い作品をもう一つご紹介します。

森博嗣『女王の百年密室』『迷宮百年の睡魔』(ともに新潮社)『赤目姫の潮解』(講談社)。百年シリーズと言われるものです。

210101-3.jpg

『女王の百年密室』

森博嗣/著

新潮社

210101-4.jpg

『迷宮百年の睡魔』

森博嗣/著

新潮社

210101-5.jpg

『赤目姫の潮解』

森博嗣/著

講談社


著者には『すべてがFになる』(講談社)など人気作品が多く、ファンクラブまで存在していますが、自身はこのシリーズが最後の小説と宣言しています。

身体と意識が別になったらどうなるのかという工学博士らしい独特な発想は、AIが珍しくなくなった世界の行く末を感じさせてくれる気がします。一般には推理小説としてジャンル分けされるのでしょうが、最後の『赤目姫の潮解』まで読み進むと、ファンタジー的色彩が強くなり、ともすれば哲学的思考に誘われる不思議な感覚を味わえる作品です。

未だコロナ禍の最中にありますが、今年が皆さんにとって良い年となりますよう。本はいつでも皆さんの傍らにあります。

Posted at:10:00