千代田図書館スタッフが紹介!「読むだけで旅気分」の本


5月16日は、松尾芭蕉が元禄2年(1689年)に「奥の細道」へと旅立ったことにちなみ「旅の日」です。

今回の「ちよぴたブログ」では、気軽にお出かけできない今だから読みたい「旅気分」が味わえる本を、千代田図書館 読書振興センターのスタッフ2人がご紹介します!

本の詳しい情報は、書名をクリックしてご覧ください。




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『旅ゆけば物語』ちくま文学の森13

安野 光雅、森 毅、井上 ひさし、池内 紀/編

筑摩書房

高校の国語の授業で読んだ福永武彦の作品が収められていると知り、この本を手に取りました。作品のタイトルは『一時間の航海』。"旅"というキーワードから、ふと思い出したのです。

沼津から戸田へ向かう定期船に乗った大学生の恋の物語。ただし、その恋は青年の空想の中だけのお話。船で隣りに座った若い娘との恋を空想し、船の揺れで現実に引き戻され...を何度も繰り返し、その空想は回を増すごとに壮大な展開を見せます。彼の創造性の高さに感心せずにはいられません。定期船の1時間程度の航行を"航海"と呼ぶところからして、日常をドラマチックなものへ変換する能力に長けていると言えます。彼の逞しい空想に若干戸惑いを感じつつも感心する一方で、船を降りた後の彼はちゃんと現実の日常を送れているのか心配にもなりました。

本書には上記作品のほか、アンデルセン、山下清、大杉栄など国内外問わずさまざまな人物が記した旅や風土にまつわる短編が集められています。ふらりと旅に出るように、気になる作品のページから読んでみるのもおすすめです。(竹原)


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『百鬼夜行絵巻 妖怪たちが騒ぎだす』

湯本 豪一/著

小学館


旅はもちろん、友だちとちょっとお出かけするのも我慢。大勢で夜の街を出歩くなんてもってのほか!このように行動を制限された人間たちを尻目に、楽しそうに列をなして夜の街を練り歩く姿があります。妖怪たちの夜の行進、百鬼夜行です。

『百鬼夜行絵巻 妖怪たちが騒ぎだす』は、現存する最古のものとされる大徳寺真珠庵所蔵の「百鬼夜行絵巻」を中心に、妖怪絵巻を紹介しています。赤鬼、青鬼、赤い顔から手が2本生えただけの妖怪、獣の手足を持つお歯黒をした女妖怪、琴の妖怪を曳く琵琶の妖怪、鍋蓋の妖怪、などなど、伝説の中で語られていそうなものから身近な日用品まで、さまざまな妖怪が登場します。妖怪たちの表情は生き生きとしていて、けたたましい笑い声が聞こえてきそうです。みんな口角が上がっていて、とても楽しそう。いいなぁ...。夜の街はしばらく皆さんにお譲りしますから、その代わりに街を通り抜ける際には疫病を一緒に持っていってくださいませんか?と思わず本の中の妖怪たちにお願いをしてしまいました。

※ちなみに、ここにはアマビエは出てきません。(竹原)


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『絲山秋子の街道を行ぐ』

絲山秋子/著

上毛新聞社事業局出版部


『絲山秋子の街道を行ぐ』は、東京都出身・群馬県在住の作家 絲山秋子さんが群馬県内各所を訪ね、その土地の魅力をつづった紀行文の新聞連載をまとめた一冊です。司馬遼太郎を思わせる書名は、上州弁で「けぇどをいぐ」と読みます。

土地と人との描写に定評のある絲山さんの小説のファンはもちろん、ドライブ好き、旅行好きの方にもおすすめ。遠くの海外リゾートだけでなく、近郊にちょっとドライブに行くのにも我慢しなくてはいけないこの頃ですが、行けるようになったらこの温泉に入ろう、この直売で野菜を買おう、この道を走ってみたい...とページをめくるのも楽しいものです。

また、読んでいると、土地に愛着を持つことについても考えさせられます。その土地の人と話し、美味しいものを見つけ、歴史を知るためには、自分の心のありようも関わってくるのかもしれません。自分の住む街を、知らないうちから勝手に「何にもない街」と決めつけていないか、ちょっと振り返ってみたくなりました。(高橋)


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『季語の科学』

尾池和夫/著

淡交社


「旅の日」が松尾芭蕉に由来するということなので、最後は俳句関連の本をご紹介。『季語の科学』は、地球科学者の著者が、俳句に欠かせない季語の意味を、科学的見解から解説する一冊。例えばこれからの季節"夏"の季語をいくつか取り上げてみると、「雷」はその発生メカニズムから世界の雷にまつわる文化まで、「雨蛙」はその分布地からアマガエルがどんな毒を持っているか、まで...。解説の後に添えられた、それぞれの季語を用いた俳句も、より理解を深める助けになってくれます。

これまで何となく「風流でいいな」ととらえていた季語の数々も、科学の目で見ると、気候や天文と強く結びつき、人々の生活に密着して生まれてきたものだということがわかります。

特別なことがなくたって、毎日の生活は季節の移り変わりという旅の途中にあります。まずは一つの季語から、俳句に触れてみるのはいかがですか?(高橋)





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