凪を求めて南木佳士を読む

今日は千代田図書館長の読書日記をお届けします。

 

『からだのままに』

著者 南木佳士(なぎけいし)

出版社 文春文庫(2010年)

価格 495円+税

ISBN 978-4-16-754516-1

 


 

この作家の作品は、半分ほどは読んでいる。

同年輩の友達に自慢げに言ったら、

「凪(南木)シンドローム?」と返された。

凪か・・・ ウマイ!

私はこの作家の作品に、凪(なに)を求めているのか。

呼吸器外科医を長年務め、

毎日苦しみぬいて死をむかえる患者を看取っているうち、

自身はパニック障害に陥り、それからうつ病を患い、

病院勤務もままならない日日が続き、

登山をすることで病気回復の「道」を見つけつつある。

 

『ダイヤモンドダスト』で第100回芥川賞受賞。

いわゆる本業を手控えたり辞めたりせず、

今も二足の草鞋をはいて、

苦しみながら書くことも辞めていない。

 

この作家の作品は、読むことが気持ちの負担にならない。

辛い事を「辛い」と書いているのに、

読んでいる私の気持ちが辛くならない。

こんな物語が、時として無性に読みたくなることがある。

 

これは私が「凪」を求めているのかも知れない。

 

どの作品にも、自身の家族(特に父親、祖母)について、

東北で過ごした医大生の生活模様、自身のパニック障害

発症からうつ病を患うようになるまで、が必ず出てくる。

 

上記の事項をいくつか組み合わせて物語が仕立てあげられ、

1冊の本が出来上がっているように思う。

新刊書を読んでいても、そろそろ「あの」事が出てくるな

と思うと、必ず出てくる・・・この嬉しさ!!

 

しかし読むたびに何となく飽きてきて、

もう読むものかと思っても、新作が出ると手にとってしまう、

まさに「南木シンドローム」に陥ってしまっている。

 

最新刊『からだのままに』の登山のくだりを読んでの大発見。

 

南木式「なぜ山に登るのか」

 

「・・・略・・・からだの重心を左右に移動させつつ、

いくらか前傾して進む。ゆっくり、ゆっくり。

すると、登っているという意識が消え、自分がただそういう

行為だけが可能な動物に変容してゆく錯覚にとらわれる。」

 

だから結果として、山に登っていることになる・・・ということ。

 

私も少し山登りをするので、このフレーズをもじって

「そこに山があるから」に変え、

「からだの重心を左右に移動させることで、

登っているという意識なく、山に登っているにすぎない」と。

Posted at:17:20