レポート:古書店の出張セミナー「和本入門」

「としょかんのこしょてんvol.41:和本入門」の

展示解説が10/31(日)に開催されました。

 

※図書館での展示は終了しましたが、展示品は今週11/12、13

東京古書会館で開催される「古典籍展観大入札会」

ご覧になれます(入場無料)。詳細はコチラ

お宝級の和本を間近に見られる、年に1度の希少な機会です!

 

 ★古書店の出張セミナー「和本入門」

  講師:橋口侯之介さん(誠心堂書店代表取締役)

  連携・協力:神田古書店連盟

 

▲右が橋口侯之介さん、左は司会の小林光寿さん(小林書房)

 

有史以来、明治期に洋装本が登場するまでの千数百年の間に

出された本は、すべて「和本」ということですから、和本について

知ることは、日本の出版の歴史を知ることにもなります。

大変興味深い内容のセミナーでしたので、台風の影響により

参加者が少なかったことが本当に残念!

セミナーでのお話しをいくつかご紹介したいと思います。

 

―なぜ、千年以上も前の本が、今でも市場に出てくるのでしょうか。

◆千年以上もつ紙

 今でいう「和紙」は平安時代に開発されたもの。

 まさに悠久の時を経て・・・ロマンを感じますね。

 

◆日本人の書物感

 日本は世界的に見ても、古い書物がよく残る国だそうです。

 「後世に伝えるために」本を大事にする意識が強かったのですね。

 平安時代から中世まで、その役割を担ったのは寺院。

 また、冷泉家など一部の公家達が頑張って残してくれたので

 室町や鎌倉時代の本などを、現代でも見ることができるのです。

 

 

▲『和漢朗詠集』烏丸光広筆 宗達模様料紙

 

昔はコピー機などもちろんなく、寺院のお坊さんなどが「書写」して残します。

ただ読めれば良いということではなく、本のつくり、書き方、紙の選び方などに

工夫をして、平安時代の《雅》を書物全体の雰囲気として残そうとしています。

 

―和本(日本の出版)の歴史

橋口さんの著書『和本入門』『続 和本入門』を読むのが

一番!ですが、お話しいただいた内容を元に端的にご紹介を。

 

◆~中世

 仏教書、漢籍など、お硬い内容の本がほとんど。木版。

 

 ▲『後七日記』寿永2年(1183)於金剛峰寺書写

  綴じ方や紙もじっくり見てみましょう。

 

~朝鮮は印刷先進国!李朝より活字印刷技術が入ってくる~

 

◆近世(江戸初期)~ 

 李朝では活字だったが日本では活字で、ひらがな本

 の印刷も始まる。当時のひらがな文は、例えば「なり」の「な」

 と「り」を続けて書くなどしていたので、かな50音+何百種類

 という大量の活字が必要!とても大変だったでしょうね・・

 

 

 ▲『剣の巻』 古活字版 江戸前期刊

 

~やはり木活字では生産性が低く、木版に戻る~

 木版に用いられたのは非常に丈夫な山桜の木。

 生産性が上がり、読者層が広がるとともに、古典などの硬い本だけでは

 なく、気軽に楽しめる本が読みたい!という要望が出てくる。

 書き下ろしの仮名文学「仮名草子」が商業ベースに乗るようになる。

 

 

 ▲『尤之双紙[もっとものそうし]』 斎藤徳元著 慶安二年(1649)刊

 

「枕草子」の一種のパロディ。<枕>の木偏をとり「ごもっとも」

とかけた。パロディと滑稽は近世文学の特徴です。 

 

 ◆17世紀末~18世紀前半

 井原西鶴の登場で、仮名草子が一段と進化。

 テーマや人物描写も当代風になっていく。⇒浮世草子

 

  

 ▲『鎌倉比事』 月尋堂・著 宝永5年(1708)刊行

 

鎌倉時代をテーマに扱いながら、当代を批判したりしている内容。

これには尾張藩の蔵書印が押されていて、由緒正しい本だということが

わかる。蔵書印は、古書店が仕入れ等で重要視するポイントの一つ。

 

◆18世紀半頃(江戸時代中期)~

 江戸の庶民向け出版が盛んに。子供向けの題材、絵を中心にして

 人物のせりふを文字にしてみせる、現代のコミックの走りような

 本が出始める。

  ・「赤本」小学生相当向け。

   正月頃に出版してお年玉代わりに贈られていた。

  ・1740年代 「黒本」小学校高学年~中学生相当向け。

  ・1770年代 「黄表紙」中卒相当~若い大人向け。

 

▲『花重窟内裏』 黒本 琴鶴・作 奥村政房・画 延享頃(1744~48)刊行

 

「黒本」は、子供がお年玉で買えるよう、とにかく安くするために、

すき返しの紙(リサイクル紙)=浅草紙(※)を使用。

表紙にも厚紙ではなく、同じ紙が使用されています。

 ※浅草紙…浅草~足立区に製紙場が集まっていました。

印字された紙を何度もすいてリサイクルするので、紙が少し黒っぽい。

 

江戸の書物文化は、階層の上下、男女を問わずよく普及しました。

そのため、実用的な本も多く、実にいろんな本が作られたようです。

 

▲『蘭学楷梯三種』 大槻玄沢 天明8年(1788)刊

初版・二版・三版と残っていて、人気の高さがわかります。

 

和本の世界は広く、深く、身近でとても面白い!

そんな橋口さんのお気持ちが伝わってくるようなセミナーでした。

もっと和本について知りたい・見てみたい!という方は、

ぜひ橋口さんの著書DVD『和本』をご覧ください。

そして今週12(金)13(土)に全国各地から集まる超・貴重な和本の

数々を間近に見ることができる「古典籍展観大入札会」お見逃しなく!

 

  

『千年生きる書物の世界 和本入門』 橋口侯之介・著 平凡社

『続 和本入門 江戸の本屋と本づくり』 橋口侯之介・著 平凡社

 

★誠心堂書店HP

[住所]神保町2-24 [営業時間]10:00~18:30/日祝休

※映画「珈琲時光」のロケ地にも選ばれた、

 千代田区の「景観まちづくり重要物件」でもあります。

Posted at:15:00