『最終講義』

今日は千代田図書館長の読書日記をお届けします。

千代田図書館の書庫から発掘した1冊だそうです。

 

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大学の卒業式の季節です。

 

かつて、『諸君は肥った豚より、痩せたソクラテスになれ』という名言が、

贈る言葉となった卒業式がありました。

 

ところで、大学の先生方の「最終講義」も、先生方の卒業「式」ですよね。

10年以上前に出た本ですが、次のようなタイトルのものがあります。

  

『最終講義』

編者  中村真一郎/坪内祐三

出版社 実業之日本社(1997)

サイズ 545p 

ISBN  4-408-10256-3

 


 

この中には19名の方々の最終講義録が収められています。

これらは殆どマスコミでも取り上げられた名最終講義です。

目次から拾うと、

辰野隆氏・西脇順三郎氏・矢内原忠雄氏・冲中重雄氏・中根千枝氏・・

それぞれ学問の世界でも一時代を築いた方ばかりです。

 

それらの中から、私の独断と偏見で、一つの最終講義を取り上げてみます。

  

冲中 重雄

演題:内科臨床と剖検による批判  

1963年3月4日 東大医学部内科講堂

 

 

 

この講義以来、「冲中先生の誤診率」という言葉で、

マスコミは報道しました。

医者が誤診をするという事が、まずショックでした。

誤診については今では盛んにマスコミが報道していますが、

1960年代はあんなエライ(東大教授)先生が?と、

俄かに信じられなかったですね。

 

最終講義は、死亡診断書と剖検との統計上の誤差、

冲中内科における年度別剖検率、年度別誤診率、・・・と続き、

以下の内容で結ばれました。

 

『わたしどものみずからの反省のために苦い経験をまとめた

 のでございます。しかし、時には剖検いたしましても、

 臨床症状を十分に説明しえないものもあります。

 ・・・それから剖検上、予期した臓器に病変を認めましても、

 その病因とか、発生機序の不明なことがあります。』

 

 中略

 

講義はまだまだ続きます。

そして・・・疾患別の誤診率をそれぞれ述べた後、

 

『平均しまして14.2%となるわけです。』 

 

 中略 

 

『こういったことをみますと、やはり正しい経験というもののためには

 剖検という試練がどうしても必要であるということを、

 こういった数字がよく示しておると思います。

 自分では当然正しい診断と思ったのが剖検ではとんでもないものがでてきた。

 こういう誤診があるのであります。』

 

 中略

 

『・・・その言葉を、学生諸君にお伝えして、

 わたくしのこの最後の講義を終わりたいと思います。

“書かれた医学は過去の医学であり、目前に悩む患者のなかに

 明日の医学の教科書の中身がある”というのです。

 長らくご清聴ありがとうございました。』(鳴りやまぬ拍手)

 

 

Posted at:18:18